はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『アゲハ蝶』と星のピアス

庭を、カラスアゲハが、舞っていた。
大きくゆったりと羽根を動かす、黒く光る姿に、そこだけ時間の流れが違っているかのように見える。そのスローなテンポとは裏腹に、頭のなかでスイッチが入ったみたいに、アップテンポのメロディが流れた。
ポルノグラフティの『アゲハ蝶』だ。上の娘が、中学生の頃、よく弾いていた。まるでピアノに喧嘩を挑むように、長い指を折れるまで叩きつけようと覚悟を決めているみたいに、強く強く鍵盤をたたいていたっけ。
反抗期。自分でもままならぬ怒りが、迷いが、悲しみが、彼女を襲っていたのだろう。そんなすべてをピアノにぶつけ、毎日何時間も鍵盤をたたき続けた。

村にひとつしかない中学で、髪を染め、ピアスを開けているのは、娘しかいなかった。学校から、何度も注意を受けた。先輩達からも、疎まれていたことだろう。それがまた、怒りに、自分を判ってもらえない悲しみにと変わる。わたしにさえ口をきこうともしなくなっていった。悪循環の日々だった。
ルールを守らない者がひとりいることで、クラス運営が立ち行かなくなる場合もあると、教師である友人に聞いた。だが、それでも、親として娘の気持ちを受け止めることを、最優先にするしかないと、決めていた。

娘のピアスは小さなシルバーの星ひとつで、大人になりかけた耳に、シンプルに光っていた。それは、あれこれ考えることなく真っ直ぐに見れば、彼女にぴたりと似合ってて、可愛かった。わたしは、そのままの感想を彼女に伝えた。
「可愛いね。その、ピアス」
すると娘は、驚いた表情を向け「お母さんは、怒るかと思ってた」と言う。
その日から、娘の弾く『アゲハ蝶』は、優しさを帯びるようになった。次第によくしゃべり、よく笑うようになり、大人になっていった。
子育てに正解はないだろうけれど、相手を思い、受け止める気持ちがあれば、なんとかなるのだと学んだ出来事だった。
「彼女は、今チェコで、楽しくやっているようだよ」
カラスアゲハは、そう伝えに来たのかも知れない。

ゆるりゆるりと舞う姿が、美しいですね~。
「アダムは林檎が欲しかったから食べたのではない。禁じられていたから食べたのだ」by マーク・トウェイン

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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