はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『八月の六日間』

北村薫『八月の六日間』(角川書店)を、読んだ。
帯には「滋養たっぷりのお仕事&山歩き小説」とある。北村薫らしからぬ帯だなぁと疑問を持ちつつも、また「元気をもらえる小説 №1!」に、騙されてみるかという気になった。いや、北村薫なら外れないだろう。安心の北村薫。そんな気持ちで手にとったのだ。

主人公は、と、かきかけて、気づいた。
「また、やられたかぁ」
主人公の一人称でかかれた、この小説には、主人公の名が記されていなかった。後輩の藤原ちゃんは、最初から苗字がニックネームだし、山で出会ったはつらつとした女子、宗形三千子さんなどは、フルネームで記されているにもかかわらず、主人公の名がない。そこに違和感を持たせず、最後まで読ませてしまう作家なのだ。
なにしろ、デビュー作『空飛ぶ馬』(創元推理文庫)から始まるシリーズ5冊も、主人公の名を記さず、描いている。その時もまた、読み終えるまで気づかなかった。主人公と姉との確執など、込み入ったストーリーでさえ、ふたりの名を記さず淡々と描いてしまう。(その上、その時には覆面作家だった。大学生の主人公が実際に語っているようなイメージ創りだったとか)

ということで、出版社で副編集長を務める40歳の女性が、単独で山歩きをする小説だ。その時々の心の動きが、山を背景に描かれている。
以下、本文『八月の六日間』から。

暗い中でふと、小学校から高校まで、ずっと一緒だった友を思った。何でも話せる相手だった。彼女は故郷、わたしは東京と別れても、ずっと側にいるような気がしていた。そんな彼女が逝った時、わたしは、
― 一人になった。
と、打ちのめされた。共有する数々の思い出が消えるような気がした。だがやがて、まだ一人いる、わたしがいる ― と思えるようになった。それは「たけし君」から「敦」を見るような思いだ。あんなことが、こんなことがあったね ― と、ふと思う時、あの人はよみがえるのだ。

『九月の五日間』は槍ヶ岳『二月の三日間』は裏磐梯『十月の五日間』は常念岳『五月の三日間』は麦草峠、そして『八月の六日間』は穂高周辺。
読み終えて、胸がしんとする小説だ。だが、北村薫のセンスのいいユーモアが、そこ此処に散りばめられていて、くすりと笑えるシーンも多々あった。個人的には、それが、ものすごく好きなのだ。

この山は、穂高辺りなんでしょうか?南アルプスと八ヶ岳しか、判りません。

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水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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