はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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夫の茶碗

「お茶碗、そろそろ、買い換えたら? 買ってこようか?」
わたしの言葉に、夫はずっと「うん」とか「あー」とか、生返事をするのみで、うなずかずにいた。そのご飯茶碗には、いくつか欠けた場所はあったが、気に入って使っていたのだ。だからわたしも、強くは言わなかった。
それが、ある朝彼は、茶碗を持つなり、言ったのだ。
「そろそろかな」と。
わたしには、昨日と変わらぬように見えたが、手に持った感覚が、潮時を伝えたのかも知れない。
「茶碗、探しておいて」と言い置き、夫は出張に出かけた。

わたしは考えた挙句、その茶碗を焼いた陶芸家、森下真吾さんの工房に、行ってみることにした。彼の器は、様々なギャラリーなどで購入し、いくつも愛用しているが、工房まで出向くのは初めてのことである。
電話すると、欠けた物なら直せるかもしれないから、持ってきてくださいとのこと。茶碗をくるんで鞄に入れ、車で走ること40分。『陶・SHINGO』は、同じ北杜市は、小淵沢にある。
森下さんは、とても気さくな方で、珈琲を淹れてもらい、おしゃべりしながらゆっくりと作品を見せてもらった。
彼は夫の茶碗を見て、目を細めた。「懐かしいなぁ。嬉しいなぁ」
その茶碗も、簡単な形の金接ぎで直せるという。安心して、違うタイプの茶碗を選ぶことにした。

たがいに東京出身だと判り、しゃべっているうちに小学生の頃の話となり、ご両親の仕事の都合で何年かイランで過ごしたのだと話してくれた。
「やっぱり、ずいぶん影響を受けたんじゃないですか?」と聞くと、
彼は、うなずいた。作風が無国籍なイメージを与えるので、そう聞かれることも多いのだそうだ。
「だけど、もちろん、それだけじゃなく、今まで生きてきたすべての時間が、今の自分を作り、作品に影響を与えているんだと思うんですけどね」
それは、そうだよなぁと納得する。自らを振り返っても、これまでの何十年かもそうだし、昨日も今日も、そうだ。昨日の小さなこの出会いだって、これからのわたしを作っていく一つのピースとなっていくのだろう。そしてこうして話ができたのも、わたし達夫婦が、茶碗を大切にしてきたからだ。それもきっと、わたし達のこれまでが、関係しているはすだ。
そう思うと、何でもない毎日や小さなひとつひとつの時間の積み重ねが、使い込んだ茶碗と同じく、急に愛おしく感じられた。

『陶・SHINGO』の外、入口には、たくさんの人形達が。
独特な不思議世界を、創りだしているよう。

大きな器に珊瑚礁。たまった雨に、木々の影が映っていました。
 
おもしろいお面、お面、お面。龍のやかん or 鍋は、薪ストーブに。
口から湯気が出てくるという、遊び心いっぱいの作品です。

珈琲カップも欲しくなりましたが、がまんしました。

欠けてしまった、夫の茶碗です。大きくて、分厚くて、
柄もダイナミック。男の茶碗! って感じですね。

新しく購入したお茶碗。全く違った感じですが、大きさは近いです。
欠けたお茶碗が戻ってきたら、わたしが使おうかな。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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