はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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左手くん、トリガーポイントについて語る

「毎日が、穏やかに過ぎていくねぇ、左手くん」
「うん。雪はもう、見たくもないけどねぇ、右手くん」
frozen shoulder(五十肩)を患っていた右手くんは、全快とまではいかずとも、痛みがすっかり引き、穏やかな心持ちのようだ。右手くんをサポートしてきた左手くんも、おなじく穏やかな心持ちになっている。
「そう考えるとさ」と、左手くん。
「身体の痛みと、心の痛みは、繋がっているんだって実感するよね」
「うん。まさに、その通りだね」と、右手くん。
「ところで、トリガーポイントって知ってる?」と、左手くん。
「トリガーって、英語で引き鉄のことだよね? そのポイント?」
「うん。身体の筋肉は思いもよらないところで繋がっていて、痛むところとは別の場所に、痛みを発生させる引き鉄になるポイントがあるんだよ」
「複雑なんだねぇ、僕たちの身体は」
「その上、心は更にね。痛むところだけ、守ろうとか、癒そうとかとしても、痛みの引き鉄は別のところにあったりするんだ」
「例えば?」と、右手くんが身を乗り出す。
「例えば、失恋して胸が痛くなるだろ?」「おっと、いきなり失恋かい?」
「でも、よくあることだって自分に言い聞かせて普段通りに会社に行ってさ」
「がんばって、乗り越えようと必死なんだね」
「ところが、ようやく笑顔が戻った頃にさ、駅ですれ違っただけの男に『どけよ、のろま!』って言われた途端、引き鉄が引かれてさ」
「自分のトロいところが、ダメだったんだ。悪いのはわたしだったんだわぁって、立ち直れないほど、ずどーんと落ち込んじゃう訳だね」
「例えその男が1日に千回『のろま!』って口癖を、口にするとしてもね」

「また例えば、年頃の娘が夜遅くまで帰って来ないと、親は心配するだろ?」
「うん。おろおろしちゃうよね」
「それが門限1分前に駆け込みセーフだったりすると、その心配は何処にも行きようがない訳だよ」「おろおろ損だ。腹も立ってくるよね」
「で、帰ってきた娘が、鞄をソファーに投げてお風呂に入ろうとしたら」
「引き鉄、引いちゃったんだね。ちゃんと片づけてお風呂に入りなさーい!」
「怒りの引き鉄、だね」「せっかく門限守ったのにねぇ、残念」

「また例えば、就活が上手くいかなくってさ」「今度は就活?」
「面接に行けども行けども、落ちまくって、それでも泣きたい気持ちを必死にこらえてがんばってる時に、親友が内定もらったって遠慮がちに言うんだ」
「そりゃ辛いけど、おめでとうって言わなくちゃね」
「もちろんさ。おめでとうって言った途端、よかったね、よかったねって、涙が止まらなくなっちゃって、もう、悲しいのか、嬉しいのか」
「うぇーん。涙のトリガーポイントだ」

「また例えば」「まだ、あんの?」「芋が転がって」
「それ笑いの引き鉄、でしょ? だいたい芋じゃなくて、箸だし」
すっかりとは言えなくとも回復した右手くんと左手くんの『トリガーポイント』についての会話は、止め処を知らず続くのだった。

「雪だねぇ」と、ハリー。「綺麗だねぇ」と、ネリー。
「雪が、降ったら雪見酒だねぇ」と、わたし。
ふたり声をそろえる「雪は、酒のトリガーポイントじゃない!」

昨日朝10時、まだまだ雪降りしきる家を後に、東京に出てきました。

雪道の運転も慣れたけど、あーあ、もういい加減にしてほしいよ。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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