はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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イタリアンパセリを眺める日々

パセリの姿が見えなくなって、わたしが開いたのは『神様』(中公文庫)に収められた『離さない』川上弘美の短編小説だった。

庭のイタリアンパセリを食べるキアゲハの幼虫を、パセリと呼び、可愛がっていた。だが5日後、パセリは行方不明となった。
その5日間のわたしの様子が、『離さない』の主人公わたしと、同じマンションに住むエノモトさんのふたりと、重なったのだ。

画家兼高校教師で礼儀正しく美味しい珈琲を淹れるエノモトさんは、2か月前、海で人魚を拾い、浴槽に放していた。いにしえの昔から、人魚は人を惹きつけて離さないものだと言うエノモトさんは、人魚のいる浴室から離れられず仕事も休みがちだと言う。頼まれ、人魚を預かったわたしだったが。

「カーテンもろくにあけず、洗濯もめったにせず、ただ浴室の中にいつづけた。椅子や毛布や食事を持ち込んで、浴室で暮らした。外に出ているときの記憶があまりなかった。誰と喋っても面白くなくなかった。電話が鳴っても出なかった。ただ人魚だけを眺めて暮らした。これではいけないとときどき思ったが、すぐに思わなくなった」

わたしを惹きつけて離さなかったパセリ。キアゲハになって舞う姿を思いつつ、何度も庭に出て、イタリアンパセリを眺める日々である。

ただただ愛らしい、うつむくパセリ。

イタリアンパセリを、無心に食べるパセリ。
このくらいまで大きく育っていれば、
何処かでさなぎになっていても可笑しくないとも思いつつ。

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水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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