はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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スペンサーシリーズ『誘拐』

ロバート・B・パーカーのスペンサーシリーズを、久々に読んだ。
日本語訳では7作目にあたるが、シリーズ2作目の『誘拐』(ハヤカワ文庫)
30年ほど前に夢中になって読んだ文庫達を開くと、年月を感じさせる埃臭さで歓迎してくれた。
ハードボイルド探偵モノという以外に、ストーリーは覚えていない。唯一記憶にあるのは、探偵スペンサーとその恋人、スーザンとの絡みが素敵で、だからこそ飽きることなく何冊も読んでいた、ということだ。
なので、スーザン初登場の『誘拐』から読もうと、読み始めた。
読み始めて驚いた。何とも、かっこいいのである。以下、冒頭文。

椅子を一杯に後ろへ倒して首をぐっと横に向けると、私のオフィスから空が見える。デフォルト焼きの青、雲一つなく、固形物のように輝いている。労働休日が過ぎた九月、たぶんどこかでトウモロコシが象の目ほどの高さに伸びていて、アル中が戸口で眠っても寒くないような陽気である。

スペンサーの一人称で描かれているのだが、次の一行でハッとさせられる。
「ミスタ・スペンサー、私たちの話を聞いてるの?」
一人オフィスにたたずんでいるのかと思えば、接客中だ。ここで読者は気づく。この探偵は、空も季節も、依頼人さえも、外界何もかもを、彼特有のユーモアとペーソスを散りばめた目線で見つめているのだということに。

そして読み進めて、思い出した。スペンサーは、食にこだわる料理人なのだった。以下、スーザンに初めて電話をかけ、夕食に誘う台詞。

「時間が遅いのは判ってるが、今からポーク・テンダロイン・アン・クルートを作るところだ。来て一緒に食べながら、ケヴィン・バートレットのことをもう少し話し合わないか。おれは料理がすごくうまいんだ。探偵としてはたいしたことはないかもしれない。自分の喉仏を見つけるのに苦労するし誘拐の人質捜しにさして成功していない。しかし、料理の腕は素晴らしい」

ケヴィンは誘拐された15歳の少年で、スーザンは彼の学校のカウンセラーだ。スペンサーは、自分で言う通りに料理の腕は素晴らしい。三ツ星レストランで出すような料理ではなく、一人あるいはふたりで楽しむような、家庭的な料理を得意とする。その夜スーザンが、彼のアパートを訪ねたのは、言うまでもないことだ。自分の魅力か、ポーク・テンダロイン・アン・クルートが好物なのかと量りかねるスペンサーもまた、チャーミングに描かれていた。

読み終えて「惜しいよなぁ」と、ひとりごちた。
翻訳して35年は経っているだろう文章に、馴染めないところも多かった。キスを接吻とかくようなストーリーじゃないのだ。
村上春樹さん、パーカーファンだって聞きましたが、翻訳しませんか?

文庫がたくさんあるのは、記憶にありましたが、8冊。

新刊で買った方が、9冊と上回っていました。
当時、そうとう夢中になって読んでいた様子が、うかがえます。



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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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