はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『幸せになる百通りの方法』

荻原浩の短編集『幸せになる百通りの方法』(文春文庫)を、読んだ。
タイトルに騙されそうになるが、自己啓発本ではなく短編小説集だ。現代社会で人が生きていくなかで感じる悲喜交々をユーモアたっぷりに描いている。
リストラされた男、オレオレ詐欺の片棒を担ぐ売れない役者、婚活に参加するも冷めた目でしか相手を観られない女、ネットゲーム周辺、歴女を恋人に持つ男、原発事故から発生した節電問題と嫁姑、自己啓発本に夢中になる男。
今まさに現代社会で浮き彫りとなっている事象を切り取っていた。
今はオレオレ詐欺とは言わないが『俺だよ、俺。』が秀逸だった。大阪は、詐欺のターゲットから外してあるという。ほんまかいな。以下本文から。

「もしもし、ありがとうな」
「ええけど。なぁ、晃」「何?」
「あんた、ほんまはなんていう名前?」
「え」脳味噌が三秒ほど機能停止した。
「こんなんするの、やめとき」
さらに三秒。高村さんのほくほく顔が一転イヤホンから針が飛び出してきたように硬直した。パチさんの顔も。麻美さんが煙草の煙りをぷかりと吐き出す。
「あのな、うちの子の名前アキラちゃうの。ヒカルって読むん。なんぼうちの子がアホでも自分の名前を間違うたりするほどのアホに産んだ覚えはないわ」
やられた。向こうに逆にひっかけられたのだ。叩き切りたかったが、できなかった。
「すんません、番号間違えたみたいで・・・」
「嘘言い。あんた年は?」
高村さんが、電話の向こうに聞こえるのもかまわず叫んでいた。
「だめだ、早く切れ」でも、切れなかった。
「まだ若いんやろ。こないなこと早うやめて、まじめに働き。あんたのお母はん、こんなん知ったら泣くで」
おばちゃんの口調はきつかった。でも、東京の人間に「だめ」とひと言で切って捨てられるより、なぜか耳触りがいい。俺は晃の母親の言葉を黙って聞き続けた。昔、飼い猫の頭を丸刈りにして、隣のおばちゃんにこっぴどく叱られた時みたいに。

幸せになる方法は、百通りと言わず、人の数だけあるはずなんだよなあ。
ひとりひとりが違っていて当たり前なように、幸せだって違っているのが本当だ。そんなこと、誰しもが知っているのかも知れないけれど、それでも周りが気になって、比べてみたり、やっかんでみたりもする。
幸せになる方法はよく判らないけれど、読み終えて思い出したのは竹内まりやの『元気をだして』の歌詞だった。
♩ 幸せになりたい気持ちがあるなら 明日を見つけることはとても簡単 ♩

自己啓発本のようなタイトルをわざわざつけたところにも、
ユーモアのセンスを感じます。
決して自己啓発本を馬鹿にしない、謙虚さも感じられました。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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