はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『クリスマスの思い出』

トルーマン・カポーティ『クリスマスの思い出』(文藝春秋)を、読んだ。
短編ながら、村上春樹が訳し、山本容子描くカラーの銅版画が20もついている、とても贅沢な洒落た装丁の本である。
友人の強いすすめで、手にとった。

主人公は、七歳の少年。彼には、共に暮らす無二の親友がいる。彼女は、60歳を超えたいとこで、物語は、初冬の朝に始まる。以下冒頭文。

十一月も終わりに近い朝を思い浮かべてほしい。今から、二十年以上昔の、冬の到来を告げる朝のことだ。広々とした古い田舎家の、台所のことを考えてみてほしい。黒々とした料理用ストーブがまず目につく。大きな丸いテーブルと暖炉の姿も見える。暖炉の前には、揺り椅子がふたつ並んでいる。暖炉はまさに今日から、この季節お馴染みの轟音を勢いよく轟かせ始めたばかりだ。

かっこいい。できれば、全文転記したいほど、厭味のない洗練された文章と、瞼の裏に焼きつくような描写だ。冒頭文でガツンとやられ、それを70頁も読めば、もう酔いしれてしまっても、わたしには一切、非はない。
以下、モミの木を伐りに行く朝の描写。

翌朝、凍った霜が草の葉を光らせている。太陽はオレンジのように真ん丸で、暑い季節の月のようにオレンジ色である。それは地平線にひらりと浮かび、銀白色に染まった冬の林に磨きをかけている。野生の七面鳥が啼く。群れをはぐれた野豚が下生えを鼻で漁っている。やがて、膝までの深さのある急な流れにでくわして、僕らは荷車をそこに残していかなくてはならなかった。

小説には、クリスマスを生活の真ん中に置き1年を過ごす、少年と、無二の親友と、ちび犬クイーニーの様子が描かれている。彼らは貧しく、同じ家で暮らす親戚達からも孤立した存在だったが、心はいつも満たされていた。
この小説を読んでしまうと、もう「思い出」という言葉を軽々しく使ってはいけないような気持ちになる。こんなに「思い出」という言葉に相応しいものが、他にはあるはずがないと思えてくるのだ。
だが、それはたぶん違う。すべての人が持っているべきものなのだと、読み終えて、いてもたってもいられなくなった。見ようとすれば見えるものを、見ようともせずに生きてきたんじゃないか、今もそうして生きているんじゃないのかと、呆然と目を閉じずにはいられなくなるのだ。

カバーをとると、中身は銀色に白い文字で英文のタイトルのみ。
真っ白く光る栞を、久しぶりに見ました。
 
ふたりは、親友のベッドに下にクリスマス資金を隠しています。
右の絵は、11月の紅葉した庭の様子です。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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