はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『きことわ』

昨日、今日の記憶よりも、子どもの頃や若い頃の記憶の方が忘れにくいと言うが、本当だろうか。確かにこの頃、今やろうと思ったことすら、立ち上がっただけで忘れてしまうことも多い。
夫に話したつもりでいたことが、話そうと思っていただけだったとか、19日にね、と話していたのに、明日が19日であることと繋がらなかったり、だとか、霧のなかに立っているかのような日々ではある。

朝吹真理子『きことわ』(新潮社)は、そんな思いを巡らせてしまうような、現実と夢と過去の記憶が入り混じり、現実のみが本当ではないのかも知れないと、不意に判らなくなってしまうような危うさをはらんだ小説だった。

夏休みごとに海辺の別荘で過ごしたふたりが、最後に会ったのは、貴子(きこ)8歳、永遠子(とわこ)15歳の時だった。それから25年後、ふたりは再会する。親戚でも何でもない年の離れたふたりだが、その繋がりは、四半世紀の時を超え、様々な記憶を絡み絡ませ、深く残っていた。以下、本文から。

「これは、とわちゃんの足だった」
にやにやと貴子が笑う。永遠子も、これはどっちの足だと、貴子の足をくすぐりかえす。貴子が永遠子の頬をかむ。永遠子が貴子の腕をかむ。たがいの歯形で頬も腕も赤らむ。素肌を合わせ、貴子の肌のうえに永遠子の肌がかさなり永遠子の肌のうえに貴子の肌がかさなる。しだいに二本ずつのたがいの腕や足、髪の毛や影までがしまいにたがいちがいにからまって、どちらがおたがいのものかわからなくなってゆく。

思い出すのは、子ども達が幼かった頃、あちこち小さな傷を作っては、軟膏を塗ってやったことだ。あ、塗らなくちゃと風呂上りに娘の膝を見るが傷はなく、すりむいていたのは自分だったと気づく。その逆もあった。くっついているうちに、どちらがどちらの身体なのか判らなくなっていくのだ。

その頃の記憶もまた、混乱し、霧のなかで絡まりあっている。本当にあったことなのか、夢だったのか、記憶違いなのか。そして今ここで過ごしている時間は、いったい本当のものなのか。目をつぶると、落下していく自分を感じた。
2011年『芥川賞』受賞作。

ビールを飲みながら、読むことに記憶が曖昧になる原因あり?

タパスセットと、ライトなハートランドビールで乾杯 ♪
何に? 年に一度の健康診断がぶじ終了。なんら異常ありませんでした。
自分的には、体重が着々と増えているのが気になるところではありますが。
待ち時間に読もうと選んだのが『きことわ』です。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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