はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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ようやく晴れた高遠の空

高遠を訪ねたのは、2度目だ。十年ほど前に夫とふたり、桜の名所と歌われる高遠城址公園に花見に行った。

『薪ストーブ祭』を楽しみ、高遠蕎麦を食べ、それから今回も、城址公園を歩いた。桜の木はまだ紅葉には早く、3連休とは言え、人も出ていなかった。ずいぶんと前のことなので、ふたりともうろ覚えの部分が多く、ああだったね、こうだったかなと話しつつゆっくりと歩いた。
たしか春の高遠は、いちめんに桜が咲き、露店が出て人でにぎわっていた。だが、その桜を見ても、気持ちが晴れなかったことを覚えている。
多分子ども達のうちの誰かのことで悩み事を抱えていたのだと思う。今となってはすっかり忘れてしまったが、その時には胸の内の広くを占める悩みだったに違いない。通り過ぎてしまえば小事でも、渦中にいるとそうとは思えないことの方が多い。そんな悩みに違いなかった。満開の桜を見て泣きたくなったことだけが、記憶にある。

その時帰り道、集落のなかにある陶器の店に立ち寄った。そこで平たいぐい飲みを買った。淡い桜色が、本物の桜より心に沁みた。この十年ほど、夫と日本酒を呑む時に、わたしがいちばん気に入って使っているのがそのぐい飲みだ。
「あの店、あるかな?」と、わたし。「集落のなかだったよね」と、夫。
果たしてその陶器屋『凡窯(ぼんよう)』は、見つかった。雰囲気も変わらぬまま、タイムスリップして迷い込んだかのように、十年前のままだった。
わたし達は顔を見合わせて微笑み、店をゆっくりと見て回った。一人の作家が作ったとは思えぬ多様な器があったが、ここで買ったぐい飲みと対になるような、やはり淡い桜色した片口を選んだ。
店を出て見上げると、空は晴れていた。わたしのなかで、十年間曇ったままだった高遠には、今ようやく、高く青い空が広がっている。
  
迷って走った集落の一つにありました。『真澄』のひやおろしを買って。

柔らかな桜色と、ゆるいカーブが気に入っているぐい飲み。

片口は、見えないところにつけられた模様が、洒落ています。
「会えたね、兄弟。って感じ?」と、わたし。
「いや、兄弟っていうよりは、片口の方が後輩かな」と、夫。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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