はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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小説「カフェ・ド・C」 13. 触れ合う肌で

北海道の義弟からじゃがいもと南瓜が届いた。
「今日はカレーと南瓜のサラダにするね」
妻は娘を抱いて「いってらっしゃい」と言った。土曜。彼女は休日で、久しぶりに娘とゆっくり過ごせるとうれしそうだった。娘の集も二か月になり親ばかだろうとは思うが日に日にかわいくなっていく。
仕事を終えて自宅のマンションに向かう道もつい早足になった。
「ただいま」
今夜のお姫様は大きな泣き声でお出迎えだ。しかし妻を見て驚いた。集と一緒に彼女も泣いているのだ。
「どうしたの?」
めったに泣き顔など見せない妻がしゃくりあげながら、答える。
「集が、泣き止まなくて。おむつも変えたし、ミルクもあげたし、ゲップもさせたし、熱もないし、ずっと抱っこしてるのに、ぜんぜん泣き止まなくて」
そして、大粒の涙をこぼし、言葉を続ける。
「こんなに小さいうちから保育園に入れて、ママのこと怒ってるのかな。母乳だってまだ出るのにミルクに変えちゃって、嫌だよって言ってるのかな」
「ミサト」僕は妻の名をゆっくりと呼び、集を抱っこする彼女を後ろからそっと抱きしめた。「だいじょうぶだよ」
妻がこんな風に考えていることなど気づきもしなかった。おおらかな彼女のことだから何も心配いらないと思い込んでいたのだ。僕は妻を抱きしめる手に力を入れた。
「君の気持ちは、ちゃんと集に伝わってる」
妻はさらに泣き続けた。涙があふれて止まらないようだった。僕は妻の肩を抱いたままソファへと移動し、娘を抱く妻を膝にのせて抱っこするようにし、頬にキスした。
どれだけそうしていただろう。さっきまで泣いていた集が泣き止んでいる。妻と目を合わせると彼女はばつが悪そうに言った。
「ごめん」
「びっくりしたよ。君がこんなに泣き虫だったなんて、新しい発見だ」
「へーちゃんのいじわる」
ようやく妻が笑い、僕も笑った。するともうひとりの笑い声が混じった。集の笑い声だった。
(集はママが不安なのがわかったんだな。僕よりよっぽどわかってる。触れ合う肌で敏感に気持ちを感じているんだ)
「泣いたら、お腹すいちゃった。へーちゃん、カレー温めて」
新米ママは、すっきりした顔で甘えるように言った。


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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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