はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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心地よいミステリー

「やった! 久々のヒットだ」と感動するわたしの横で娘が言った。
「また1塁打だよ」と言っても、どちらも野球の話ではない。ホームランバーを食べる娘にわたしが言う。「1塁打だって大切なんだよ」
 
久々のヒットを飛ばしたのは初めて読む作家、近藤史恵。『タルト・タタンの夢』(東京創元社)だ。
下町にある小さなフレンチレストラン「ビストロ・パ・マル」が舞台。「パ・マル」とはフランス語で「悪くない」という意味。名付けたのは風変わりなシェフ三舟。気取らないけれどフランス料理好きな人が舌鼓を打つような素敵な料理が人気だ。そして物語は、客達が巻き込まれた小さな事件の真相を三舟シェフが解いていくコージーミステリー。コージーミステリーとは、居心地の良い居間で香り高い紅茶に焼き菓子でもお供にくつろいで読むのに適したミステリーと言われている。
日常に潜む謎を、独特の観察力で話を聞くだけで推理し、三舟シェフがスマートに解き明かしていく。「パ・マル」で働くのは、ギャルソンのぼくこと高築、ソムリエのボーイッシュな女性金子さん、穏やかな厨房スタッフの男性志村さん。そして髭づらで髪を後ろに結わえた一見恐そうに見える三舟シェフの4人。ぼくと金子さんが20代、厨房のふたりは30代と若い店だ。
ミステリーの謎解きと、物語や店のおしゃれな雰囲気、そして何と言っても美味しいフランス料理を楽しめる連作短編集。三舟シェフの鮮やかな謎解きは、誰もが持っている胸に秘めたわだかまりのようなものを溶かしていき、心地よい読後感を約束してくれる。
しかし残念ながら、わたしはフランス料理に詳しくない。タルト・タタンが林檎のタルトってことくらいはわかるけど、ロニョン・ド・ヴォー? オッソ・イラティ? うーん。これはフランス料理を食べに行かなくちゃならないな。「パ・マル」のようなビストロがあるといいんだけど。
ちなみに『ヴァン・ショーをあなたに』という続きがあるようだ。ヴァン・ショーはスパイシーなホットワインで、三舟シェフは疲れた時や傷ついた人にこれを薦める。楽しみだ。
1塁打の短編だって、読み重ね、読み終わる頃には、ホームインした快感が味わえるものなのだ。

北側の窓に並べたワインボトル フランスワインはどれでしょう?

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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