はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『花の鎖』

湊かなえの小説『花の鎖』(文春文庫)を、読んだ。
主人公は、3人の女性。梨花、美雪、紗月。それぞれに悩みを抱えている。
両親を亡くし仕事も失った矢先に祖母が癌で入院した梨花。死んだ母に毎年贈られてきた花束の送り主「K」を探す。以下本文から。

「そういや、俺もKだ。Kの正体が俺だったらどうする?」
「花の送り主が花屋? 匿名にする理由は?」
「それだ。年賀状を実名で送ってくる人が、花を贈るときだけ『Kより』なんて書かないよな。昔の話に名前がよく出てきたのに、手帳に名前が載ってない人とか思い当たらないのか?」
「全然。ママってそういう話を全くしない人だったから。今度はどこへ行こう、何をしようって先のことばっかり。パパとのなれそめを訊いても、どうだっけ? とか本当に憶えてなさそうだったし。パパもそういう人だったから、なおさらなんだろうね」
「ばあちゃんはどうなんだ? きっちりしてるじゃないか。一緒に住んでいる娘にあんな大きな花が届いたら、誰からか訊くんじゃないか?」
「もちろん、ばあちゃんにも訊いたよ。Kの秘書が来たときも一緒にいたんだから。そうしたら、見ず知らずの他人とも強い絆で結ばれていることがある、なんて、正体を詮索する気はないような言い方された」

結婚して3年の美雪。悩みは子どもができないこと。それさえ優しく受け止めてくれる夫だが、彼の仕事に陰りが見えてきた。以下本文から。

「和弥さん・・・」
話してくださいとは言えません。私と陽介さんはいとこ同士です。けれど、私は和弥さんの味方です。信じてください。そんな思いを込めて、和弥さんを見つめました。
「・・・あとは全部俺がやる、だってさ」
「どういうこと? 選ばれたのは和弥さんが応募した図面なんでしょ。陽介さんにそんなことを言う権利はないわ」
「権利はあるさ。知らないうちに名前が書き換えられていた。最終候補に選ばれたのはうちの事務所名義で応募した作品。代表者は、陽介だ」

バイトをしながら好きなイラストを描き、昔の恋人との辛い思い出を忘れようと、一人で育ててくれた母と生きる紗月。以下本文から。

母が誰かに相談や頼み事をしている姿を見たことは一度もなかった。小学校低学年の頃、母が熱を出して寝込んだことがある。誰かを呼んでこようかと駆け出そうとしたのに、母は一人で大丈夫だから行くなと言った。
「お母さんは一人で大丈夫だから。寝込んだら誰かに助けてもらえるなんて、体が覚えてしまったら、一生起き上がれないわ」
それを聞くと、自分も他人に頼ってはいけないような気がした。

3人の女性達は、花で鎖を編むように、花の記憶で繋がっていた。読み進めるうちにその鎖がほどけ「K」の謎が解けていく。
花は誰のためでもなく咲いているのだが、その可憐な姿は人の心に様々な変化をもたらす。人の心が動いたとき、それは記憶として残っていくのだろう。
コマクサの花を探して、八ヶ岳を登るシーンが印象的だった。いつも観ている八ヶ岳に、高山植物の女王と呼ばれる花が咲いていることを初めて知った。
日々漠然と眺めている山々だが、知っていることはほんのわずかなのだ。

子どもの頃に編んだ、シロツメクサの花冠を思い出すような表紙。
デビュー作『告白』が黒なら『花の鎖』は白。解説、加藤泉の言葉です。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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