はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『大きな鳥にさらわれないよう』

川上弘美の『大きな鳥にさらわれないよう』(講談社)を、読んだ。
何百年後、何千年後の遥か未来を描いたファンタジーだ。その未来には、今の世界が崩壊を迎えた後、小さな集落ごと、たがいに交流することなく、作物を育て動物を狩りながらもコンピューターを操り暮らす人々がいた。

ある集落では、男達は工場で働き、女達は集団で子どもを育てる。工場は、食料と子どもを作るためのものだった。
また、ある集落では、人の名は数字だった。苗字が15ならいちばん先に生まれた子どもは「15の1」という名になる。
ある集落では、クローン技術によって作られた「わたし」が何人もいた。若いわたしは、年老いたわたしから役割を受け継いでいく。
ある集落では、光合成もする食事を摂らずとも生きていけるタイプの人間がいた。火を起こしたいと思うだけで起こせる者も、心が読める者もいた。
「見守り」と呼ばれる様々な集落を偵察して回る人達がいた。集落と集落の摩擦が起きることはなかった。戦争は、何処にも起こらない。
人の生の意味は、命を繋ぐことのみに向かっていく。生殖のためだけにセックスをする。誰の子どもでも関係なく育てる。クローンを作る。
いつしか希望らしきものも、憎しみらしきものも忘れ去られていた。だがそのなかにも、希望や憎しみの意味を知りたいと思う者もいた。以下本文から。

「ねえ、憎むって、どういうことなのかな」
あたしは、30の19に聞いてみました。
「わからない。でも、もしかすると、少しはわかるかもしれない」
不思議な返事を、30の19はしました。わからないけれど、少しわかる。それはいったい、どういうことなのでしょう。
「前に、昨日の昨日のもっと前の話をしただろう」「うん」
「何十万という人がいたって、言ってたよね」
何十万、などという数字は、想像しようとしてもできなかったと、30の19は言いました。
「あたしも、同じ」「だから」
30の19は言うのです。わかろうとしないで、ただみずうみに泳ぎに出る時水に体をまかせるように、その数字に身をまかせる。すると、少しだけ、何十万という感じが、向こうからやってくる。30の19は、説明するのでした。
「でも、それ以上のことは、わからないな」
明るく、30の19は笑いました。
「何十万という数字がどんなものかはっきりわかる、とか、憎しみを誰かにおぼえる、とかいうことは、ぼくらには生まれつきできないんじゃないかと、思うんだ」

タイトルの「大きな鳥」って、何のことだろう。読み終えてから、ずっと考えていることだ。神様のような、わたし達を俯瞰している存在のことだろうか。もしかすると、そういうものが今もこの世界の何処かにいるのだろうか。

川上弘美は、新刊を買うことを自分に許している作家のひとり。
本屋さんで見つけると、わくわくします。
ネットで見つけたときよりも、今すぐ手にとれる感がいい。

見返し部分のブルーが、ハッとするほど綺麗です。空かな、海かな。

カバー全体の絵は、こんな感じです。未来というよりむかしな雰囲気。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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