はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『ナオミとカナコ』

奥田英朗の話題作『ナオミとカナコ』(幻冬舎)を、読んだ。
読んだばかりの『沈黙の町で』に、奥田の俯瞰力とも言えるような力に魅了され、あえて分厚い新刊を購入したのだ。
帯には「わたしたちは親友で、共犯者」とある。
28歳の二人は、大学時代から親友。仕切り屋で気の強い直美と、線の細い穏やかな加奈子は、性格は違えど価値観がとても似ていて、気が合うだけではなく、たがいに尊敬しあえる無二の友だった。
ある日直美は、加奈子が夫に日常的に暴力を振るわれていることに気づく。
子ども時代、父親の母親への暴力を目の当たりにしてきた直美は、事態を深刻に受け止め自分のことのように思い悩むのだった。以下本文から。

朱美が表情を険しくし「殺しなさい」と言い放った。
「そんな男に生きている価値はないのことですね。殺されても文句は言えません」「それはちょっと・・・」さすがに直美は絶句した。
「殺したら刑務所行きじゃないですか。割に合わないでしょう」
「じゃあ捕まらなくてもいい方法を考えなさい。わたしなら上海旅行に連れ出して、そこでギャングに頼んで殺します。中国のギャングだから、日本の警察は手を出せません。中国の警察は日本人旅行者が一人死んだくらいではろくな捜査をしません。それで終わります」
朱美が事もなげに言う。直美はこの女社長ならやりかねないなと思った。きっと中国人にとって生きるということは戦いなのだ。だから己の生活を守るためのうそや策略は、すべて正当防衛なのである。
「わたしもそれくらい強くなりたいです」
直美がため息まじりに言った。
「あなたは充分強いです。わたしが会った日本人の女の人でいちばん強いのことですね」

二人は、とめどなく暴力を振るい続ける加奈子の夫を、殺害する。
直美にも加奈子にも、後悔はなかった。捕まらず、死ぬこともせず、生きていく。彼女達の選択肢はそれだけだ。
この小説の魅力は、二人の女性が、強く変わっていく姿にある。
特に、線が細かった加奈子のなかに、しっかりとした芯のようなものが確立していくさまには、心を打たれた。
人を、殺してはいけない。人を、殴ってはいけない。人を、傷つけてはいけない。誰もが判っていることだ。それをあらためて、深く考えさせられる。

左がカナコで、右がナオミかな。フジテレビ系列でドラマも放映中。
ナオミを広末涼子が、カナコを内田有紀が演じています。
で、中国人の女社長は? とキャストを見ると、高畑淳子。
オンデマンドで観てみたら、はまり役でした。

カバーをとると心の影を表すような、ふたりのモノクロ肖像が。
人の心の光と影を、あらためて思ってしまいます。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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