はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『沈黙の町で』

奥田英朗の長編小説『沈黙の町で』(朝日文庫)を、読んだ。
地方都市の中学校で、男子生徒の死体が見つかった。死んだのは2年の名倉祐一。死因は、所属するテニス部の部室の屋根、2階の高さから転落し頭部を強打、即死だと思われる。小柄でおとなしい生徒だったという。その後、警察の調べで、祐一は4人の生徒からいじめを受けていたことが発覚。異例にもそのうちの14歳以上の生徒2人が逮捕されたのだが。

分厚い文庫の3分の1は、大人達の視点で語られていく。
死体を発見した2年生を受け持つ国語教師、飯島。飯島とはもと同級生の刑事、豊川。新人の女性新聞記者、高村。いじめの加害者である市川健太の母親。同じく坂井瑛介の母親。呉服屋を切り盛りする商売上手な、祐一の母親。二十代で正義感の強い検事、橋本。
そのなかで、何が起こったのかが、少しずつ明らかになっていく。
そして3分の1を過ぎ、子ども達の視点(健太。クラスメイトの安藤朋美)で事件以前の出来事が、進行中の現在と照らし合わせる形で語られていく。彼らには彼らの事情があり、簡単に大人に話せないことも、例え話したとしても理解しあえないだろうと思えることも多かった。
解説の池上冬樹はかいている。「人間の未熟さが引き起こす悪意や中傷や暴力といったものを、逃げずにしっかりと描ききっている」以下、本文から。

「子供は基本的に呑気だな。それが彼らの特権だよ」
飯島が唇に白い泡をつけたまま答える。豊川は同感だった。自分の少年時代を振り返ってみても、嫌なことがあっても一晩寝たら忘れた。
「別の言い方をすれば、動物的だってこともあるんだろうけど」
「ああ、そうだな。刹那的で、短絡的で、自分のことしか考えてないし」
「おれさあ、最近考えたんだけど、人間って、特に男子は、子供の頃平気で残酷なことをするじゃないか。豊川、おまえ小学生のとき、田圃でカエルを見つけたらどうしてた?」
「捕まえた。男子なら誰だってそうだろう」
「捕まえてどうした」
「殺した。空に向かって投げてアスファルトに叩きつけたり、尻にストローを突っ込んで風船にして破裂させたり、火あぶりの刑にしたり」
豊川は答えながら顔をしかめた。思い起こせば実にひどいことをした。
「子供にはそういう残虐性が誰しもあって、長じるにつれ、徐々に消えていくものじゃないか。中学生にはその性質が残っているんだよな。ひどいいじめは中学生が一番だ。高校生になると手加減するし、同情心も湧く」

いじめについて真っ向から挑み、淡々と丁寧に作り上げたという印象の群像劇だった。どの語り手にも寄り添い読んでしまう上手さがあり、一つの事柄にも、それにかかわる人の分だけ、違う視点、異なった見方があるのだと言われているような気がした。

夫が買って読んでいた文庫です。奥田英朗の小説は、夫婦で楽しめるかも。
『空中ブランコ』で直木賞をとった、夫と同い年の作家です。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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