はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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満ち満ちた生命力が放つパワー

地下鉄で、赤ん坊が泣いているのを、ぼんやり眺めていた。
若い母親が抱いて揺らしても、いっこうに泣きやもうとしない。身体を突っ張って、力のすべてを泣くことだけに注いでいる。
「すごいなぁ。大人があんなに力一杯泣いたら、3日くらい寝込みそう」
などと、ひとり考える。
「お母さんも、たいへんだ。もう、子育てするパワーはないなぁ」
3人の幼児を抱えていた頃を思い出すが、あの頃とて、そんなパワーがあったとも思えない。どうやって育てたのか、思い出すことすらできない。

地下鉄に乗ったのは、久しぶりに東京に住む両親の家を訪ねた帰りだった。
父が「夏バテして痩せた」と電話してきて「検査してもどこも悪くなくて、ただ食欲が出ないだけ」というのだが、とりあえず見舞いに行ったのだ。
会うと確かに痩せており、病人然とした雰囲気を漂わせている。
話も暗い方に進みがちだったが、笑顔で聞くしかない。あいづちにも疲れた頃「自分に何かあったら、車は息子(わたしの弟)に」などと縁起でもないことを言うので、話を変えた。
「そう言えば、車、友達に売ったって」24歳になった上の娘のことである。
長旅に出るに当たり、10万キロ以上走った中古の軽だが、facebookで買い手を探し当て、交渉し、売却したらしい。その車のローンも大学在学中に、バイトしたお金で家に全額返金してもらったことなどを、話した。
すると父は、ぽかんとした顔をして、
「廃車にしたんじゃ、なかったのか」と言い、声を上げて笑い出した。
「全く、ぼーっとしてるようで、ちゃっかりしてるなぁ。いや、しっかりしてるところがあるってことだけど」
それからまるで人が変わったように、父は笑顔でしゃべり始めた。孫娘の活発さを、いたく面白がっているようである。
その娘から、来週泊りに来ると、電話があったと言う。
「荷物があるから、車で迎えに行くんだ」
と、80歳までタクシードライバーだった父は、心なしか嬉しそうだ。
しかし、その娘の行動に、わたしは腹を立てた。
「おじいちゃん、具合悪いんだから、面倒掛けるなって言ってあるのに! 何考えてんの? 断っていいからね」と、父にまで腹が立ってくる。
だが父も、だいじょうぶだと言って譲らない。
「全く、もう。孫娘も孫娘なら、おじいちゃんもおじいちゃんだ」
ぶつぶつ言いながらの、帰り道だったのだ。

赤ん坊は、いつのまにか眠っている。
「生命力に、満ちあふれているよなぁ」
寝顔からも見てとれるそのパワーについて、考えてみる。親は、あんなに満ち満ちた生命力と日々向き合っているんだから、そりゃあパワーも出る訳だよ、と思えてきた。自分もそうだったのかも知れないなぁ、と。
そして孫娘の話をした途端、明らかに元気になった父について、考えてみる。あんなに満ち満ちた生命力(娘)がやってきたら、やっぱパワー、出るかも、と思えてきた。とりあえず、来週のことは、彼らに任せるしかない。
雷雨だったという東京の雨も届かない地下鉄で、ゴーゴーと響く走行音を赤ん坊の寝息と重ねて聞きつつ、ひとり自分を納得させた。

帰りに、最寄駅『穴山』近くの蓮池庭園に、寄ってみました。
蓮は、まだかたい蕾でしたが、紫陽花を観に行きました。

実家の都営団地にも、紫陽花がいっぱいだったから、なんとなく。

どんな色でも、綺麗だなぁ。雨に濡れて、輝いて。

ちょっと変わり種のガク紫陽花も、咲いていました。

花達を大切に育てていることが、一目で判る庭園です。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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