はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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小説「カフェ・ド・C」 4. ブラックとミルク

 運転中、細い路地で轢かれた黒猫を見た。
 夫婦だろうか、ひとまわり大きなミルク色の猫が、隣に座り込んでいる。その猫達をゆっくりと避けて、次の信号まで行くと、長いつきあいの友人から電話が鳴った。
「チョコレート、買ってきてくれない? 二日酔いなの。二日酔いにはチョコレートが効くって、言うでしょ」
 僕は、生返事をして電話を切り、両方のできごとを飲みこめないまま、スーパーの駐車場に車を停めた。
 店の定休日。その友人の家に、荷物を届ける途中だった。
ブラックとミルク、二枚の板チョコを買い、車に戻る。二枚のチョコレートを見比べると、ふいに眼がしらが熱くなった。しかし涙をこぼすまいと決め、どうにか持ちこたえる。通りすぎただけの僕などに、彼らは、涙をこぼしてほしくなどないだろう。チョコレートを買ってきてと呑気に電話してきた友人と、僕はさして変わらないのだ。
 しかし、と考える。自分のかたわれを亡くしたあのミルク色の猫は、どうやって生きていくんだろう。動かなくなっている方は、きれいな黒猫だったと思い返す。一瞬見えた死に顔は、笑っているように見えた。
 気持ちがおさまらず、友人へのやつあたりだと知りつつ、板チョコのラベルを交換した。ブラックとミルク。気づかれないかもしれないほどの、小さなやつあたりだ。
「はいよ。お待ちかねの荷物と、お見舞い」
 僕は、渡すものだけ渡すと、お茶もことわって、車に戻った。
 荷物の中身は、先月母の家で生まれた真っ白い猫だ。彼女は猫を飼いなれているから、何も説明はいらない。顔を見ると自分の猫でもないのにわけもなく淋しくなるから、いつもこうして渡してしまう。
 帰り道、その彼女からまた、電話が鳴った。
「白い猫が欲しいって言ったのに、なんで黒猫なのよ。かわいいから、このままでいいけどさ」
「そんなはずは……、」
言いかけた瞬間、道を横切る、白い子猫が見えた。入れ替わった?  ブラックとミルクが? まさか。驚きは、すぐに笑いに変わった。なんだって、入れ替わったなんて思ったんだろう。母のいたずらに決まってるじゃないか。
「きみは、じつは黒猫がほしいんだって、知ってたのさ」
僕は、笑って電話を切った。そして、ひとりつぶやいた。
「知ってたのは、僕じゃなくて母の方だけどね」
彼女は僕の中学の同級生で、僕の母とも仲がいい。
小さな黒猫が穏やかに暮らせますようにと、祈るような気持ちでゆっくりとアクセルを踏みこんだ。


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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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