はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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加賀恭一郎が好きだった

加賀恭一郎が好きだった。大学生だった加賀も、警視庁捜査一課にいた加賀も、練馬署で働く加賀も、日本橋署にやって来たばかりの加賀も。しかし、それも今や過去形だ。自分でも「好き」と言えるかどうかわからなくなってしまった。すべては『新参者』(講談社)ドラマ化のせいである。

東野圭吾は特に好きな作家だという訳ではないが、読みやすさと面白さに魅かれ読んできた。そして加賀恭一郎に出会った。出会ってすぐに加賀恭一郎シリーズの熱烈なファンとなった。文庫の帯に「彼は解く、事件の裏側を」とあるが、刑事、加賀は犯人逮捕で事件を終わらせない。被害者、加害者、事件にかかわるすべての人のなかで事件が終結するまで真実を追いかけていく。
なかでも一番好きなのは『新参者』日本橋署に着任したばかりの加賀は、ひとり暮らしの女性絞殺事件を追い、人情に篤い日本橋の地を新参者として歩き回る。煎餅屋にも料亭にも瀬戸物屋にも時計屋にも、それぞれが抱えた小さな秘密があり、証言が微妙にずれていく。加賀は殺人事件を追いながらも、それぞれの小さな事件をも、見過ごすことなく解決に導いていった。連作短編のような趣もあり、その店や家族や人とのつながりなどを一話ごとに楽しめる。ラストはしびれた。わたしの読書体験のなかでも久々の大ヒットだった。

だからドラマ化すると聞き、不安になった。誰でもそうだと思うが、好きな物語だからこそイメージを壊してほしくはない。だが、ドラマ『新参者』は、なかなかの出来で、ストーリーは知っていても日本橋の風景や、映像化ならではのセリフ回しや表情など、役者も揃っていて楽しめた。最終回を観終わって、やれよかったと安堵した。しかしそれで終わりではなかった。
次の巻『麒麟の翼』(講談社)が、発売された。喜び勇んで新刊を購入したわたしは、ページを開いて愕然とする。これまで漠然と思い描いていた加賀恭一郎の顔が、きっぱりと俳優、阿部寛のものになっていたのだ。読み終えてからも釈然としなかった。阿部寛は嫌いじゃない。コメディもシリアスも演じられるマルチな役者だと買ってもいる。
「でもでも。わたしの加賀恭一郎は、阿部寛じゃないのに!」
映像化のイメージの強さに負けた。完全なる敗北である。

今のところシリーズは全9巻。左から発売順に並んでいます。
『赤い指』(講談社)からは、新刊リアルタイムで読みました。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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