はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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ニシノユキヒコの冷蔵庫的魅力

物に名前をつけると、たちまち擬人化し親しくなったような気がして面白い。
川上弘美の連作短編集『ニシノユキヒコの恋と冒険』(新潮文庫)に収められた『通天閣』に、物に名前をつける一風変わった女の子、昴が登場する。

『冷蔵庫を、昴は「ぞぞさん」と呼んでいた。ぞぞさんに足つっこむと、罰があたるかなあ、などと言いながら、よく足で冷蔵庫の扉を開けては、そのまま足先をつっこんでいた。わたしがいくら注意しても、やめなかった。ぞぞさんはうるさいひとだね、と言いながら、ぶうん、という音を真似したりした』

これほど印象的な冷蔵庫のシーンには、なかなかお目にかかれない。主人公はニシノユキヒコだし、ストーリー的に重要でもないのに何故か記憶に残るシーンだ。21歳の、ちょっとばかげたことが好きな昴の人物描写を、冷蔵庫との絡みが深く描いているからかも知れない。

この連作短編は、十の短編から成り、それはすなわちニシノユキヒコの十の恋を描いている。14歳の西野君としおり。18歳の西野くんと二十歳ののぞみさん。二十歳の幸彦とカノコ。30歳のユキヒコと33歳のマナミ。35歳のニシノくんと40歳のエリ子さん。50代半ばの西野さんと二十歳の愛。そして死後、夏美さんの前に現れたニシノさん。などなど。
「うーん。ニシノユキヒコ、何故に、そこまでモテる?」
と、うなってしまうほど、恋多き男。女性には果てしなく優しく、二股をかけていても限りなく真剣で、じつは真実の愛を求めている。

久しぶりに、昴の冷蔵庫のシーンを読み、ふと考えた。
「ニシノユキヒコって、冷蔵庫みたい」と。
上の娘は、冬でもよく冷蔵庫を開ける。「お腹、空いてるの?」と聞くと、
「いや、冷蔵庫開けると、ホッとするんだよね」との答え。
いくらお洒落なデザインにしてもウドの大木的ぼくとつな容姿。それに加え、何かいいもの入ってないかなぁというびっくり箱的わくわく感。そして、全体を把握できないブラックホールのような謎めいた性格(?)なんとも親近感がわく、一度使ったら手放せない電化製品だ。
そう考えると、ニシノユキヒコと、彼が愛した女性達、彼に恋した女性達の切なくも不思議なラブストーリーの魅力その謎が、すとんと腑に落ちた。

私のところに来るときは携帯の電源くらい切ったら、と言うと、エリ子さんが恋人になってくれたらそのときにはね、とニシノくんは答えたものだった。「ニシノくんって、なんだかまちがってる」と私が言うと、ニシノくんは真面目な顔で頷いた。「僕がまちがっていることは、僕が一番よく知っている」
『ニシノユキヒコの恋と冒険』収録『しんしん』より

我が家の冷蔵庫とレシピ表の守り神、マグネットやもりくんです。
「はじめまして。最近の冷蔵庫は、静かですねぇ」

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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