はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『鹿の王』

今年2015年の本屋大賞を取った上橋菜穂子の『鹿の王』(角川書店)を読んだ。ノミネートされた時から読みたいと思っていた。彼女の本はほとんど読んでいて、楽しい読書タイムになることは判っていたからだ。読み始めてすぐに、ぐいっと物語世界のなかへひき込んでくれる。それが上橋菜穂子なのだ。

物語は、架空の世界が舞台。畑を耕し狩りをして、釜戸で料理をし、刀や弓で戦う人々が生きる時代。
主人公は、闘い破れて奴隷となり岩塩鉱で働かされているもと戦士、ヴァンと、帝国支配下で働く若き優秀な医師、ホッサル。ふたりを交互に追いつつ、ストーリーは進んでいく。
突然、山犬のような獣に襲われ、岩塩鉱は奴隷も見張りの兵士も全滅した。そのなかで生き残ったのがヴァンと1歳の女の子、ユナだった。ヴァンはユナを連れ、逃亡する。一方、ホッサルは、岩塩鉱で死んだ人々の死因を探る。獣に噛まれ死病に感染した疑いが強く、ホッサルの祖先が国を捨てた原因となる「伝説の病」再発かと考えたのだ。しかし、逃亡したヴァンもユナも獣に噛まれていた。生き残った者と死んだ者。その違いは何か。ヴァンとホッサル。会ったことのないふたりだったが、離れた場所で、同じ疑問を抱えていた。

ヴァンの故郷トガ山地では、馬でも牛でもなく飛鹿(ピュイカ)に乗る。
以下、下巻、ヴァンが初対面のホッサルに、故郷のしきたりを語るシーン。

「飛鹿の群れの中には、群れが危機に陥ったとき、己の命を張って群れを逃がす鹿が現れるのです。長でもなく、仔も持たぬ鹿であっても、危機に逸早く気づき、我が身を賭して群れをたすける鹿が。
たいていは、かつて頑健であった牡で、いまはもう盛りを過ぎ、しかしなお敵と戦う力を充分に残しているようなものが、そういうことをします。
私たちは、こういう鹿を尊び<鹿の王>と呼んでいます。群れを支配する者、という意味ではなく、本当の意味で群れの存続を支える尊むべき者として」

ヴァンは、妻と息子を病で亡くしていて、戦士になったのも死ぬためだった。そんな彼の心に灯りを燈したのは、ユナだ。ユナがいることで物語の色が全く違うものになっている。以下、下巻、さらわれたユナを追い野宿するシーン。

「ユナが、な」ヴァンは口を開いた。
「木割れの音を聞くたびに、ぴょん、と跳ねるんだ」
初めて木割れの音を聞いたとき、驚いて飛びあがったのを見たオゥマたちが、大笑いしたのがうれしかったらしい。木割れの音がするたびに、驚いたふりをして、兎のように跳び上がるようになったのだ。それがまた、毎回毎回、様々工夫を凝らした迫真の演技なので、今度はどんな風に跳び上がるかと、見ている方も結構楽しみだった。
そんなことを話すと、サエは小さく声をたてて笑った。物静かなこの人が笑うと、なんとなく、小さな褒美をもらったような気分になる。

ユナが微笑ましく、それを思い口元を緩めるヴァンの愛が伝わって来て、こちらも思わず笑顔になった。
重苦しい悩み事を抱えながら、長い人生、時間を積み重ねていけるのも、そんな一瞬があるからこそだ。小さな瞬間に光を見出だすことの大切さは、ファンタジーと呼ばれる架空世界でも、今立っている現実でも変わらないのだということを、ページをめくりつつ指先に感じた。
飛鹿の駆ける世界を、堪能した夜だった。

上巻には、飛鹿。下巻には、キンマの犬が描かれています。

カバーをとった装幀です。やわらかなブルーとオレンジ。

中表紙も、お見せしましょう。栞の色も、もちろん同系色。



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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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