はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『白河夜船』

睡眠を見直そうかなと、昨日かいたばかりだが、偶然にも読み始めた小説が「眠り三部作」と呼ばれる短編集だった。
吉本ばなな『白河夜船』(新潮文庫)は、表題作の他『夜と夜の旅人』『ある体験』の3つの短編が収められた薄い文庫で、どれも「眠り」と「死」のかかわりを描いている。『白河夜船』は、眠りに憑りつかれた女性の物語だ。
寺子は親友だったしおりの死後、仕事も辞め、眠ってばかりの生活を送っていた。恋人には、事故で植物人間になった妻がいて、彼女は寺子よりも深く眠っている。しかし寺子は、眠りをストレートに受け入れている訳ではなく、抗う気持ちも強く持っていた。以下、本文から。

「今って、朝の五時なんだわ」と口に出した自分の声が乾いていた。
私は心底、恐かった。いったい、時計は幾回りしたのか。今は、何月何日なのか。夢中で部屋を出て階段を降りて行って、ポストに入っている新聞を広げてみた。大丈夫。一晩眠っただけだった、と私は安心した。しかし、それにしても尋常ではない時間を眠り続けたのは確かだった。体中が少し調子を狂わせているのがわかる。なんだか目まいがした。夜明けの青が街中に蔓延して、街灯の光が透明だった。私は部屋に戻るのが本当にこわくて仕方がなかった。きっとまた、眠ってしまう ― いっそ、やけくそになって眠ってしまおうかとも思った。もう、行き場がないような気さえした。
私は、なんとなくそのまま外へ歩いて行った。

寺子が、うつらうつらしながら歩き座り込んだ公園のベンチで会った少女のなかには、しおりがいた。少女の身体を借り、寺子に忠告しにきたのだ。
「私にとても近いところにいるから、会えてしまったのかもしれない」と。

眠っている間、意識が何処へ行っているのか。「死」と近い場所へ行っているのではないか。「死」とは、深く深く眠ることなのだろうか。
眠りも死後も、解明できないものだからこそ、そんな風に考えるのかも知れないが、もしそれが真実だったらと、読み終えてぼんやりと、考えた。
久々にジャケ買いした、新潮社のお洒落な文庫です。
「白河夜船(しらかわよふね)」とは、何も気づかないほどぐっすり眠ることを言うのだとか。映画『白河夜船』は、4月25日公開。



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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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