はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『蛇行する月』

桜木紫乃の連作短編集『蛇行する月』(双葉文庫)を、読んだ。
6章ある章タイトルは『1984 清美』などと、西暦と女性の名で構成されている。1984年。小説の始まりは、北海道は釧路。高校の図書部で仲の良かった清美、桃子、美菜恵、直子、順子の5人が卒業した年だ。清美は、セクハラとパワハラが横行する割烹ホテルで働く日々。ある日、順子からの電話が鳴った。働いていた和菓子屋の職人と駆け落ちするという。20歳も年の離れた彼との間に子どもができ、東京に逃げるのだと。
『1990 桃子』桃子は、職場での不倫に疲れ、東京の順子に会いに行く。順子から来た年賀状の「わたし今、すごくしあわせ」の一行が気になってしょうがなかった。籍も入れられず、貧しい暮らしの何処に「しあわせ」があるのか、見てみたかった。その後1993、2000、2005、2009と和菓子屋の女将と順子の母を挟み、それぞれの女達の視点で物語は紡がれていく。以下『2000 美菜恵』より。

同封されていた写真には、はにかむ青白い顔の少年と、エプロン姿の順子が写っていた。背後にラーメン屋のカウンターがある。肩を寄せ合う母と息子の姿だ。美菜恵は化粧気のない顔とお下げにした長い髪に釘付けになった。高校時代の調理実習時間とほとんど変わらない格好だ。シミだらけの頬と目尻や口元の皺が、順子のこれまでを物語っている。肌の手入れも流行の服もなかった十数年が、すべて写真に写っていた。これが今の須賀順子だ。
長く見ていると、この笑顔に自分のすべてを否定されているような気がしてくる。全身から、立ち上がる力が抜けてゆきそうだ。谷川がこの写真を見たらどう思うだろう。見栄ばかり張っている美菜恵と比較して、後悔したりしないだろうか。急激に酔いがまわった。直子がトイレから戻ってきた。
「ねぇ、これが今の順子なの」
「そうだよ。ただのオッカさん。いつも前しか見てないし、次のことなんかちっとも考えてない。打算も予算もない、須賀順子のまんまだよ」

順子の「しあわせ」を垣間見た女達は、自分と比べずにはいられなくなる。何がしあわせなのか判らなくなる。自分の立っている場所がぐらつくような感覚に陥る。そうして、自分なりの答えを出していく。
読みながら、女達と一緒に、そんなぐらつくような感覚に陥った。
「しあわせ」って、なんだっけ。

表紙の親子は、順子の家庭を描いたものでしょうか。
だとすると東京かな。温かな気持ちになるような絵です。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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