はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『ボクの町』

引き続き、乃南アサを読んでいる。昨日『ボクの町』(新潮文庫)を、読み終えた。交番で巡査見習いをする青年の物語である。
名は、高木聖大(せいだい)23歳。警察官を目指したのは、フラれた彼女を見返してやりたかったから。耳にはピアス、警察手帳にはその彼女と撮ったプリクラ。汗水たらして働くのなんか、柄じゃないと自分では思っている。先輩警官達にも、物怖じしないどころか生意気な態度さえとってしまうのは、じつは馬鹿正直で気が短く、思っていることがすぐに顔に出てしまうからだ。
以下、110番マニアの度重なる通報に爆発するシーン。

「ふざけんな!」思わず班長を押しのけて怒鳴っていた。瞬間、宮永班長が肩を掴んだが、もう止められなかった。
「俺らはなあ、ソバや寿司の出前じゃねぇんだよ!」
真っ白かった北川の顔が、見る見るうちに赤く染まっていく。腫れぼったい瞼の下の細い目が、落ち着きなく左右に揺れた。
「てめえの暇つぶしの相手なんか、してられるか! 淋しいんだったら、友達でも彼女でも、自分で探せ! それも出来ねえんだったら、お前なんか田舎に帰れ!」
「い、いいのかよ、善良な市民に、そんなこと言って。いいと思ってるのか」
「てめえなんか、善良でも何でもねえよ。生っちろい、ウジ虫野郎じゃねぇか。こっちは毎日汗だくになってかけずり回ってるっていうのに、てめえは働きもしねえで、何様のつもりなんだ!」

そんな聖大も、いや、そんな聖大だからこそ、自分がこのまま警察官を目指すべきなのか迷い、失敗に落ち込み、優秀な同期の三浦をやっかみ、やってられねぇと自棄になり、見習い期間のあいだ、悩み続けていた。
そんなとき、連続放火犯と対峙した三浦が大怪我を負う。聖大は、気持ちに迷いを抱えたまま、ひたすら犯人を追うしかなかった。

印象に残ったのは「人間なんて、汚いのが当たり前だ」という先輩刑事の言葉だった。人間誰もが持っている、その汚い部分を目の当たりにし、人間が嫌いになったり、人が信じられなくなったりしながら、それでも続けていこうと思えるのは「人間って、まんざら捨てたものじゃない」と思える瞬間があるからだと、まだ年若き、ほんの少しだけ先輩の刑事が、迷い悩む聖大に語るのだ。

新米巡査高木聖大シリーズは、今のところ2冊。次は『駆けこみ交番』です。
少し成長した聖大くんが登場する『いつか陽のあたる場所で』もおススメ。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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