はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『漁港の肉子ちゃん』

西加奈子『漁港の肉子ちゃん』(幻冬舎文庫)を、読んだ。
丸々太った肉子ちゃん(38歳)と、母娘とは思えぬ可愛らしいキクりん(5年生)は、流れ着いた北国の漁港で暮らしている。新鮮な魚が美味しい港で、地元住民が食べにくる焼肉屋「うをがし」に住み込みで雇ってもらったのだ。店主は70歳過ぎのおじいちゃん、サッサン。店は、そこそこ繁盛している。
語り手であるキクりんは、母、肉子ちゃんのありのままの姿をさらけ出す様を見つめながらも、周囲に気を使う、空気を読む子どもに育っていた。
以下本文から。

「肉子ちゃん、外人って言ったらあかんねんで」
「外人? なんでっ?」「差別用語なんやって」
「嘘やんっ! ほんならなんて言うたらええのんなっ!」「外国人」
「・・・がい・・・。一緒やんっ! どう違うんっ!」
「外人って、どっか蔑んでるような・・・感じ?」「蔑んでる・・・っ!」
「馬鹿にしてるみたいに取られるねん」
「そんなんデブと肥満と一緒やんっ! 言われてる方の気持ちは一緒やっ!」

肉子ちゃんは、太ってて不細工で、着る服もセンスなどまるでなくて、男に騙されて金を貢がされてばかり。だけど、キクりんを愛する気持ちだけは限りなく大きい。キクりんは、肉子ちゃんみたいにださい大人はなるまいと思いつつも、客観的にすべてを見つめる賢さを持っていた。しかし、賢いといっても5年生。大人に教えられることもある。
「みんな、それぞれでいい」「ちゃんとした子どもも、ちゃんとした大人もいない」というサッサンの言葉は、キクりんの胸に沁みていった。

わたしは、自分が大人と呼ばれる年齢になってから、ずっと違和感を抱えていた。大人って、こういうものなの? 今の自分が大人なの? という感覚だ。サッサンの言葉は「大人」という認識を打ち砕き、長年の違和感を取り除いてくれた。わたしは大人じゃない。わたしはわたしなのだ。

漁港は架空の町ですが、宮城県石巻の漁港を旅した時に見かけた焼肉屋が
モデルになっていると、あとがきにありました。旅したのは東日本大震災の
前で、地震のあとに、ふたたび訪ねたとかかれていました。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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