はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『本日は、お日柄もよく』

友人からすすめられたのは、無闇矢鱈と、ぼろぼろ泣ける小説だった。
原田マハ『本日は、お日柄もよく』(徳間文庫)装幀やタイトルから、結婚式モノ? と思いきや「スピーチライター」が主役のお仕事小説だ。

物語は、主人公のOL、こと葉が出席した幼馴染み、厚志の結婚式から始まる。仕事関係者の祝辞があまりに退屈で、こと葉は舟を漕ぎ、冷めたスープに頭をぶつけてしまう。そこで出会ったのが、伝説のスピーチライター、久遠久美だった。言葉が持つ魔力に呆然とし、そしてその魅力に目覚め、こと葉は、久美の事務所に修行に通うようになる。やがて、政治になど興味を持たぬ彼女は、新人議員候補、厚志のスピーチを担当することになった。

何故、これほどまでに泣けるのか?
それはやはり、言葉が持つ魔力、魅力を最大限に活かしてかかれた文章だからだと思う。よく知っている何でもない言葉が、使われるシーンにより、突然、特別なものとなって輝きを放つ。それが琴線に触れるのだろう。例えば。

厚志君はおかしくてたまらないようだった。くすくす笑いながら「でも何になろうと、おれら、友だちだから」と言った。そのひと言は、乾いた砂浜にすうっと寄せる波のようだった。
政権交代、国民目線の政治、マニフェスト、完全なる勝利―それらの言葉はとてつもなく強く、胸にも耳にもずっしりと響くものばかりだ。それらの文言は、繋がれ、語られ、受け入れなければならないものだった。私と厚志君は、重い使命を帯びた言葉達に向かい合い、それらを武器に今、闘っているのだ。
そんな中で、ぽつんと聞いた言葉。友だち。そんな単純なひと言に、なぜだか私の心は震えた。

久美が、ある人にもらったという、言葉もいい。
「困難に向かい合ったとき、もうだめだ、と思ったとき、想像してみるといい。三時間後の君、涙がとまっている。二十四時間後の君、涙は乾いている。二日後の君、顔を上げている。三日後の君、歩き出している」

人前でしゃべるのは苦手なわたしだが、スピーチ、こんな風にできたらかっこいいだろうなぁと思わずにはいられなかった。スピーチの極意、十箇条つき。
話すこと、そして聞くことの大切さをも、描いた小説だ。

自分では選びそうにない本を、教えてくれた友人に感謝です。
帯の「入学・就職・結婚のお祝いに!」を見て、完全にひいていました(笑)
言葉の選び方ひとつで、人を魅きつけ、また、離れさせてしまう、帯。
そのコピーを読むのも、本好きにはかかせない、本の魅力の一つです。

昨日、義母から、夫のバースディプレゼントが届きました。穴子です。
それをつまみつつ、夕方ウッドデッキで、近所のお二人と夫と4人、
ビールタイム。他愛ない話一つ一つに、聞くことの大切さを思いました。
これまで、しゃべることばかりに夢中になっていた自分を、恥じつつ。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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