はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『愛の夢とか』

川上未映子の短編集『愛の夢とか』(講談社文庫)を、読んだ。
裏表紙の紹介文には「なにげない日常の中でささやかな光を放つ瞬間を美しい言葉で綴った七つの物語」とある。

表題作『愛の夢とか』では、隣人である老女(テリーと呼んで)のピアノを聴きに行く主婦(じゃあ、わたしはビアンカで)を描き、『日曜日はどこへ』では、いつかこの小説家が死んだら、もう一度会おうという初恋の人との約束を。そして『十三月怪談』では、若くして病死した妻。夫のその後、そして死んだ妻のその後を描いている。

以下、身重の妻との小旅行で、親になることへの不安から、生きていくことにさえ危うさを感じ始めるふたりを描いた『三月の毛糸』より。

薄暗い部屋の真ん中にあるベッドが薄闇の中でぼんやりと白く浮かびあがっていた。シーツにくるまって横になっている彼女をしばらく見ていたけれど、それはまるで置物みたいに動かなかった。表面によった皺や陰りにふくらんだそのかたまりは、見れば見るほどそれは人の輪郭をかたちどったものではなく、その膨らみの下には、本当はなにもないんじゃないかというようなそんな気持ちがしてくるのだった。あの白く盛りあがった膨らみの中にあるのは何でもないただの暗さなんじゃないかと思えてくるのだった。拳で突けば簡単に沈んでしまう、あれはただの空洞なのじゃないか。
僕は立ちあがって窓のそばへ行き、カーテンをひいて、窓の向こうに広がる街並を眺めた。ビルや車の流れや空や何もかもが、夜に塗りかえられる直前の薄暮に沈んでゆく最中だった。

心って、人の想いって、わたしが思っているよりも、遥かに深く壮大なものなんじゃないか。この短編集を読み終えて、じんわり感じた疑問だ。
本当は、自分の心を、そして周りの人の想いを、もっともっと深く広く感じられるはずで、それならば感じていきたいものだと思ったのだった。

その他『アイスクリーム熱』『いちご畑が永遠につづいてゆくのだから』
表紙のイメージは『お花畑自身』かな。 第49回 谷崎潤一郎賞受賞作。
表題作『愛の夢とか』に「とか」をつけるところが川上未映子らしいな。
意外ですが、初めての短編集だそうです。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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