はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『カウント・プラン』

黒川博行の短編集『カウント・プラン』(文春文庫)を、読んだ。
裏表紙の紹介文を借りれば「現代社会が生み出しつづけるアブナイ性癖の人達。その密かな執着がいつしか妄想に変わる時、事件は起きる・・・」とある。表題作は、眼に入った物を数えずにはいられない強迫神経症の一種、計算症の男を描いている。以下本文から。

この日十三本目の煙草をくわえてライターをすったが、ガスが切れていた。カウンターの徳用マッチを引き寄せたら、箱の中にジクがぎっしり詰まっている。一本、二本、と眼で数えはじめた。赤い頭をめやすに五十五本まで数えたが、あとは中身を移し替えないと数えられない。眼の奥がじんじんして首筋が硬くなる。髪の中を毛虫が這いまわっているような焦燥感。
やめろ、これは店のマッチや。 ― 引き剥がすように視線を逸らして目をつむった。きな臭いにおいが鼻孔の奥に広がりだす。
「おあいそや。勘定して」
燗酒を残したまま、福島は逃げるように店を出た。

ストーリーは福島の生活描写と並行し、大型スーパーに脅迫状が届く事件を追っていく。商品に毒物を混入するとの脅しに対し、刑事達が未然に防ごうと動くが、テナントの一つペットショップの水槽に青酸ソーダを入れられ、公開捜査へと踏み切る。その脅迫状の切手から、福島の指紋が検出された。

登場する科捜研の心理鑑定官は、言う。
「人は誰でも、強迫と恐怖に囚われる傾向を持っている」
玄関の鍵を閉めたか、ガスの火を消したか、確認しても確認しても不安になるタイプの強迫神経症もあるという。わたしは普段、異常なほどに不安になったりはしないが、心配し始めると止まらなくなることもある。そういうときにはわたし自身も、狂気と正気の中間にいるのかも知れない。自分のなかにあるものが、いつしか狂気の粋に達してしまったら。そう思ったら寒気がした。
黒川は、決してそうした神経症なる状況にいる人を、犯罪予備軍として決めつけたりはしてはない。ただその特性により起こりうるであろう物語を、淡々と紡いでいた。

愛想のない表紙だったので、数字の小人くん達に手伝ってもらいました。
表紙の装幀は、脅迫状。郵便番号のような定規でかかれた字のものでした。
『カウント・プラン』は、日本推理作家協会賞受賞の短編です。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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