はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『はだかんぼうたち』

江國香織の「著者が初めて結婚をテーマにすえた群像劇」と帯にある長編小説『はだかんぼうたち』(角川文庫)を、読んだ。
群像劇と呼ばれるだけあって、様々な人の視点で語られていく。だが、そのなかで核となるのは、桃とヒビキだ。35歳の女達。
桃には、まだ恋人とは呼べない9歳年下の鯖崎がいて、ヒビキには、性欲が強すぎる夫と4人の子ども達がいる。そして桃には、夫と過ごす時間や家庭というものに固執している母親がいて、ヒビキには、夫を亡くした後、ネットで知り合った恋人と同棲中に亡くなった母親がいる。(あるいは、もういない)
桃の母親は、幸せの定義から「結婚」を外すことが考えられない女で、桃が結婚をなるべく視野に入れないように生きているのは、たぶんそのせいもある。鯖崎を「恋人」と定義できないことも。そんな桃を知っていてヒビキは言う。「でも別れたんでしょう? その色男のために、石羽さんと」
鯖崎は、そのヒビキにも魅かれていくのだった。以下本文から。

「でも、結婚は解放にはならないのね」桃は言った。
「解放?」
「だってほら、奈良橋さんは結婚しているし、ヒビキだってそうだわ。でも二人とも、べつな相手とべつなことが起きてる」鯖崎は苦笑する。
「奈良橋さんはともかく、ヒビキちゃんは何事も起こさないようにしてるよ」
運ばれたグラス二つに氷を入れた。
「おなじことだわ」
桃は断じる。紹興酒のグラスを手渡すと、そのままカランと氷の音を立てて一口飲み ― 桃の白い細い喉に鯖崎は見とれた ― 、
「みんな、いつまでこんなことをするのかしら」
と言って目元をほころばせて笑った。口元ではなく目元をほころばせる、桃の笑い方が鯖崎は好きだ。
「こんなことって、デート? セックス? 男女交際?」
土曜日だし、場所も近いので、このあとはたぶん桃の部屋に行くことになるのだろうと思いながら言うと、
「その全部」というこたえが返った。
「考えこんじゃうこととか、突然淋しくなることとか、不安になることとか」

普段は考えることもないが、考えてみれば、結婚って不思議な形だ。
そのなかに身を置いているわたしは、必要な制度だとは思うし、今の生活は幸せでもあるのだが、こうも思う。それぞれの生き方が認められ始めている今の時代、3人の子ども達は、好きにすればいいと。
小説のなかでは、桃の母親が、いちばん近い環境にある人物だったが、もっとも相容れないと感じる考え方をする女性でもあった。幸せの定義は、人それぞれでいいと、わたしは思う。そのなかに「結婚」が入っていようと、いまいと。結婚しているから、逆にそう思えるのかも知れないけれど。

読んでいた喫茶店に入ってきたカップルが、夫婦なのか恋人なのか。
やけに盛り上がっている二人を、見るともなしに読んでいました。
「結婚と恋愛、どちらがいいのだろう」という帯の文句に、
「いや、そういう問題か?」と、ちょっと笑いながら。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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