はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『この世にたやすい仕事はない』

津村記久子の新刊『この世にたやすい仕事はない』(日本経済新聞出版社)を、読んだ。『とにかくうちに帰ります』がおもしろかったので、衝動買いしたのだ。帯には「お仕事ファンタジー小説」とある。
14年間働いた職場を辞めた36歳の女性が、やりたい仕事じゃなくてもいいから、できる仕事をしようと、5つの仕事を転々とする話だ。
最初は、危険物を持っている可能性がある対象者を、室内に設置したカメラで監視する仕事だった。そこで、対象者が見ていたスーパーのチラシを覗き見て、特売輸入ソーセージを買いに走ったところ買い損ね、自分は何をしているのだろうとすっかり落ち込む。そのうえダメ押しのように、そのソーセージを美味しそうに食べる対象者を見てしまう。それも、やはり見損ねたお笑い番組を、大笑いしながら観るところを。以下本文から。

私はいったん、おとといの映像を一時停止して、事務椅子の肘掛に全体重を預けて、がっくりと頭を垂れた。自分は不幸だと思った。いやわかっている。世界には、こんなもの屁でもないようなつらいこと、大変なことがたくさんある。それでも、この瞬間だけは不幸ゲージを最大まで上げさせて欲しい、と思う。すぐ下げるから。あさってくらいには。
やりがいはあったが、質量ともに慢性的に仕事に裏切られているような感じに耐えられず前職を辞め、実家に帰って、失業保険が切れた。しかし、生活を覗かれるよりはましだよなあ、とどこかで思いながら、私は山本山江を監視していた。なのに、そんなことはないということを思い知らされたのだった。

くすくす笑いながら読めるこの小説は、しかし、ラストにはすとんと腑に落ちるものがあった。そう。働くって、生きることなんだよなあ、と。
わたしの仕事は、主な業務は経理事務だが、そのなかには社長である夫のサポート全般という業務がある。もしかしたらこの仕事って、生きることにいちばん近い仕事なのかも知れないなあと、本を閉じ、思ったのだった。

タイトルは、もっと綺麗なショッキングピンクなんですが、
写真には写りませんでした。栞の黄色がぴたりと合っています。
バスでアナウンスされる広告コピーを作る仕事、
おかきの袋の裏にある豆知識を考える仕事、
環境ポスターの貼り替えをする仕事、森林公園の小屋での仕事など、
主人公は、どの仕事にもまじめに取り組んでいきます。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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