はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『きりこについて』

「きりこは、ぶすである」から始まる、西加奈子の小説『きりこについて』(角川文庫)を読んだ。
きりこの顔の描写は、こんな具合だ。ぶわぶわと頼りない輪郭、がちゃがちゃと太い眉、点のような目、アフリカ大陸をひっくり返したような鼻、難解な歯並び。そして首は、見当たらない。

客観的に見るとぶすであるきりこだが、両親に愛され「可愛い」と言われ続けて育つ。自然と、自分がぶすであることに気づかず育つこととなる。小学5年で、初恋のこうたくんに「ぶす」と言い放たれるまでは。
鏡を見なくなり、学校に行くのをやめ、眠ってばかりいる十代のきりこと一緒にいたのは、賢い黒猫、その名もラムセス2世だ。きりこは、容姿がどうであれ、自分は自分以外の何ものでもないことを知っていた。そしてまたラムセス2世も、きりこがそれを知っているからこそ、彼女に寄り添っているのだった。以下本文から。

猫たちはすべてを受け入れ、拒否し、望み、手に入れ、手放し、感じていた。猫たちは、ただそこにいた。ただ、そこにいる、という、それだけのことの難しさを、きりこはよく分かっていた。人間たちが知っているのは、おのおのの心にある「鏡」だ。その鏡は、しばしば「他人の目」や「批判」や「評価」や「自己満足」という言葉に置き換えられた。それらは、猫たちにとって排泄物よりもないがしろにされるものであった。

読み終えて、「自分らしく」という言葉さえもが、中途半端に感じるほど、きりこの物語にのめり込んでいる自分に気づいた。自分そのままに生きることの難しさ、自分そのままに生きることの大切さを描いた小説。
きりことラムセス2世に、すぐにでも、会いに行きたくなった。
ラストに、どんでん返しとは言えなくとも、衝撃的なオチがある。すべてが腑に落ちる瞬間、心温かく笑う自分を感じた。

「うちは、入れ物も、中身も込みで、うち、なんやな」
「今まで、うちが経験してきたうちの人生のすべてで、うち、なんやな」
それでこそ、わが、きりこだ!! ラムセス2世は思うのだった。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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