はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『あと少し、もう少し』

本屋で、瀬尾まいこの新刊を、久しぶりに見つけた。
開くと1年以上前に刊行されている。最近読んでいなかったなと帯をじっと見るが、買うのをためらった。何故かと言えば、駅伝を走る中学生を描いた青春小説とある。スポコンを読む気分じゃなかった。だが、瀬尾まいこである。ただのスポコンで終わる訳が、あるまい。1分間ためらって、真っ直ぐレジに進んだ。そしてその夜、読み終えた。『あと少し、もう少し』(新潮社)
「いやー、面白かった! さすが、瀬尾まいこ」と、誰彼かまわず言いたくなるほど、ゲラゲラ笑って、ぼろぼろ泣いた。駅伝を走り切った時みたいに、爽快だった。もちろん、駅伝、走ったこともない訳だが。

「章立て」がまず、駅伝の区分けと同じく6区に分かれていて、それぞれ、走者の一人称での語りになっているのが鍵だ。
1区、小学生の頃、いじめられっ子だった、設楽。「身体は無駄にでかいくせに、声は小さくしゃべればどもる。それだけでいじめてくれという雰囲気が漂っているのに、ついでに名前は設楽亀吉だ。おじいちゃんがつけた名前だけど、今の世の中を亀吉で生きていくのは至難の技だ」
2区、はみ出した不良、大田。「俺はやったってできない。だいたいやればできるやつは、ちゃんとやっている。何にも力を注がない時間がこれだけ積み重なった俺にできることなど、一つもなくなっていた」
3区、何でも頼まれれば断れないお調子者、ジロー。「『頼まれたら断るな』これが母親の教えだ。頼んでもらえるのはありがたいことだ。幼いころからそう言われ続けたから、俺の人生はずっとそんな感じ」
4区、吹奏楽部でサックスを吹きクールを装う、渡部。「騒がずはしゃがず冷静で、音楽や美術が好きで知的であか抜けている。ハングリー精神はゼロで、無駄な努力はせず、いつも余裕が溢れている。ちゃんとなりきれているのか、これが正解なのかもわからない。だけど、こういう俺でいれば大丈夫なのだ」
5区、先輩、桝井に憧れて走る2年生、俊介。「こんな時までどうして桝井先輩をなぞろうとするのだろう。誰かのまねをしてうまく走れるわけがない。僕は何のために走ってるんだ。自分自身の走りをせずにどうする」
そして6区、桝井。陸上部に設楽を誘い、俊介に慕われ、部員でもない大田、ジロー、渡部に一目置かれ、駅伝をまとめる役割を背負ったデキルやつ。だが彼にも自分の言い分はあるのだ。

自分が知っている自分と、誰かから観た自分とは、違う。そこには小さな誤解や、大きな勘違いが当たり前にあり、6人のたがいへの思いを読むにつけ、それを思い知らされる。例えば設楽は、乱暴な大田を恐れ、自分はバカにされていると思っているが、大田は小学2年の時に鬼ごっこで追いつけなかった設楽に勝ちたいと単純に思っていた。6人それぞれ抱いている気持ちのズレが、不思議と6人をまとめていく。それ故に起こる風を感じるストーリーだった。

前から、設楽、大田、ジロー、渡部、俊介、桝井の順で走っています。

カバーを開くと、何処までも広がる見慣れた田舎の風景。
自転車でも追いつけない陸上を知らなさすぎる顧問、上原先生に、
桝井は苛立ちを感じますが、彼女はマイペースで応援していきます。
「ファイト」と「がんばって」と「あと少し」
彼女が彼らにかけた、3パターンしかなかった言葉を、かけたくなる絵です。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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