はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『昨夜のカレー、明日のパン』

ぎっくり腰をいいことに、のんびり本を読んだ。
『昨夜(ゆうべ)のカレー、明日(あした)のパン』(河出書房新社)木皿泉(きざらいずみ)初めての小説にして、本屋大賞ノミネート作品である。初めての小説と言っても、ふたりで一つの作品を生み出す売れっ子脚本家夫婦の、という前置きつき。ふたりで、どうやってかくんだろう。謎だ。しかし、誰がかいていたっていい。例え百人の共作だとしても、小説さえ面白ければ。
で、文句なく面白い連作短編集だった。何しろ空気がいい。澄んでいる。容赦なく濁ったものを、浮き出させるほどに。

物語は、ひとつの家庭から始まる。テツコとギフ。ギフは文字通りテツコの義父で、テツコは7年前に夫、一樹(カズキ)を亡くして以来、28歳の若さで、ギフとふたりで暮らしている。テツコの恋人、岩井。隣人で一樹の幼馴染み、タカラ。いとこの虎尾。一樹の死んだ母親、夕子。様々な人の思いが、ドラマとなり綴られている。

ひとつひとつの短編に収められたエピソードに、読んだ人それぞれ、ビビッとくる要素があり、またそれもそれぞれ違うんだろうなと思いつつ、わたしがビビッときた文章を挙げてみようと思う。

テツコは、急に憎くなった。晴れやかに笑っている雑誌の表紙のアイドルも、美しい歯をそのままにと書かれたガムの包装紙も、活性酸素を除去するという天然水のペットボトルも、なにもかも憎かった。
        『昨夜のカレー、明日のパン』収録『ムムム』より

中学の頃、鞄や机に突っ込んだままにした学級通信を、思い出した。
中学生のわたしは、危うく読みそうになり「目が、つぶれる」と、読まずにくしゃくしゃにした。今思うと、先生達大人も一所懸命だったんだろうと判る。だが、そこに並べられた「一所懸命」だとか「前進」だとか「真心」「誠意」「心を一つに」「笑顔」「目標に向かって」などなどの言葉に共感できるものは、なかった。と言うか、くしゃくしゃに丸めて捨てるしかなかった。テツコのように、綺麗なものすべてを、憎んでいたんだと思う。

誰しも胸の奥にそんな気持ち、抱えてるんじゃないかな。不器用だなぁと自分でも思いつつ。そんな不器用な人達のハートウォーミングストーリーである。

銀杏の木が、物語の核になっています。栞の黄色が綺麗です。
カバーをとってみると、箸置きと箸。ギフとテツコのものでしょうか。
食卓って、やっぱり家庭の核なんだよなぁ。

タカラは、今、私はファスナーの先端だと思った。しっかりと閉じられているこの道は、私が開けてくれるのを待っている。そう思ったら、何だか嬉しくて、気がつくと心の底から笑っていた。
     『昨夜のカレー、明日のパン』収録『パワースポット』より

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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