はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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晴れの日も雨の日もある人生を

連休、夫の高校時代からの友人が山を観に来た。
東京在住の彼はこれまでに2度、美味しいワインを持って泊りがけで遊びに来ているが、八ヶ岳も南アルプスも富士山も裾野ですら観ることができなかった。いつも雲が山を覆い尽くしているのだ。
「雨男ならぬ雲男なんとちゃう?」
故郷神戸の友人がそこまで来ていると思うからか、夫の口から関西弁が出た。
「クモオトコって、蠅男じゃないんだから」とわたし。
「晴れることも雨に降られることもない曇りオンリーの人生や」
そして彼は、小雨混じりの空模様の中やって来た。
「雨と共に来ました」と、もう会った途端に自虐的セリフ。
昨日までくっきりと見えていた山々が雲の向こうにすっかり姿を隠している。
その日は夫とふたり蕎麦を打ち、夜は手作りイタリアンでワインを3本空け、3人ずいぶんと酔っぱらった。
翌朝目覚めるも、どんよりとした空。一同言葉少なになるが、八ヶ岳大橋までドライブすることにした。
 
八ヶ岳に少しずつ近づいていく。雲が少しずつ少しずつ流れていく。大橋に着いた頃、八ヶ岳は、その姿を半分覗かせていた。しかし一番高い赤岳の雪化粧した頭に小さな雲がちょこんと乗って動かなくなった。
「ふーっ!」と夫が、届くはずのない息を、雲に向かって吹きかける。
そのせいだろうか。30分ほどすると八ヶ岳を覆う雲はすべてスーッと流れて消えた。八ヶ岳は照れたように、その全容を彼の前に現した。
「本当に、あったんやな」
山の存在自体否定しかけていた彼は、八ヶ岳をじっと見つめた。南アルプスも富士山も、うっすらとだが姿を見せ、実在することをアピールしている。彼が雲男だという疑いは晴れた。彼の人生には晴れの日も雨の日もあるのだ。

八ヶ岳大橋で 赤岳の頭に雲を乗せた八ヶ岳 左側はまだ雲の中

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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