はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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昨日までの風景を覚えていることは難しい

北側の窓から見える風景が変わった。先週のよく晴れた風のない日に、大きく育ち過ぎていた楢(なら)の木を切ったのだ。窓の向こうには新しく出来上がったばかりのような空が広がり、木の枝に隠れていた八ヶ岳も頭を見せた。

約7メートルの楢は、夫が知り合いのツテでプロに依頼し切ってもらった。
木に登り、枝を切り、枝を下ろし、という作業を繰り返すうち、枝はきれいに無くなった。幹は倒す側にくさび形に切り口を入れ、ワイヤーで引っ張りながら反対側からチェーンソーで切ると、計算通りの場所に倒れた。さすがプロだ。「ブラボー!」と拍手を贈りたくなる瞬間だった。
ご夫婦で仕事をしていると言うふたりと、休憩中話をしたが、重機等を使わず、登りながら切っていく技術を持つ人を「アーボリスト」と言い、日本語では表現が難しいらしい。「樹木医」が近い言葉だそうだ。
楢を切ることにしたのは、傾斜地に生えているため剪定ができず、伸び放題に伸びていくまま、何もできず困っていたからだ。
「この楢も切ってよかったと思います。枝が傷んで虫が入っていましたから」
そう言ってもらい、ちょっとホッとする。これまでに比べ、この冬はアカゲラ、コゲラが楢の枝をつつく姿をよく見かけた。虫が入っている木をキツツキ達は知っているのだ。
楢は再来年には、よく乾いていい薪となり、我が家を暖めてくれるだろう。しかし昨日までそこにあったものが、姿を消すのは、淋しい。童話のように、切り株が芽を出すとは限らないのだ。

突然空き地になった場所に、昨日まで何があったのか思い出せないことがよくある。毎日通る道でさえ、すぐに忘れてしまう。現実に、今見えるものの方がどうしてもインパクトが強く映るのだろう。昨日までの風景を覚えていることは、思いのほか難しいということだ。だがわたしは、楢の木のことは、たぶん忘れない。銀色の雪で枝を飾った姿も。新緑の眩しさも。

二株立ちの楢の木でした。
見た目より傾斜は急で、下には農業用の堰(せぎ)が流れています。

薪の長さ(約45cm)にチェーンソーで楢を切る夫。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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