はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
[307]  [306]  [305]  [304]  [303]  [302]  [301]  [300]  [299]  [298]  [297

キッシュと牛丼

久々に会う友人とランチした。娘達が大学に入学し、そのお祝い&お疲れさま会ということで、ふたりゆっくりとしゃべった。おたがい県外に末娘を出し、ひとり暮らしをさせることになり、受験もその後のバタバタも同じように経験しているので、否が応でも盛り上がる。
「まだ淋しいとか思えないよねぇ」「ただただホッとして、疲れたねぇ」
たがいの脱力感も似通っていて気持ちも通じ合い、穏やかなランチとなった。

ランチしたのは甲斐市の『モネの台所』パスタとキッシュの店だ。
キッシュのランチセットは、珈琲付き消費税込みで1200円ちょうど。手ごろな値段である。ふと考えた。400円の牛丼なら3杯分だなと。牛丼とキッシュを比べている訳ではない。思い浮かんだのは森絵都の小説『風に舞いあがるビニールシート』(文春文庫)に収められた『犬の散歩』という短編だ。

「牛丼ばかり食べてる先輩がいたんです。彼は本当に牛丼が大好きだったから、なにもかも、世界のすべてを牛丼に置きかえて考えるのがつねでした。当時は牛丼が一杯400円くらいだったかな。Tシャツ一枚買おうか迷ったときにも、彼の基準となるのはやっぱり牛丼でした。三千円のTシャツを買うお金があったら、牛丼が7杯食べられる。7杯分の牛丼を犠牲にするだけの価値がそのTシャツにあるかどうかって」
主人公の恵理子は、先輩がうらやましいと思っていた。いつでも真剣に牛丼を通して世界を捉えていく彼が、揺らぎないものを持っているように思えたから。しかし恵理子は考える。先輩の牛丼を、今わたしは持っていると。
お金よりも大切な何かのために生きていく人を描いた、6編からなるこの短編集は、直木賞受賞作だ。

果たしてキッシュ・ランチ1200円は、高かったのだろうか。
ノーだなと、自分のなかで答えを出す。わたし達は牛丼3杯分のお金で、お金では買えない穏やかで充実した時間を手に入れたのだから。

ほうれん草とベーコンのキッシュ&バジルチキンとポテトサラダのキッシュ。
友人と別れ、家に帰ってから、末娘の部屋の本棚を見てみました。
『風に舞いあがるビニールシート』を、娘は持って行ったようです。

拍手

03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
ご意見などのメールはこちらに midukisae☆gmail.com
(☆を@に変えてください)
Template by repe