はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『薔薇を拒む』

近藤史恵のミステリー『薔薇を拒む』(講談社文庫)を、読んだ。
両親を事故で亡くし施設で育った博人は、大学進学の援助を条件に高校を中退し、山奥の洋館に住み込みで働き始める。住人は40代の美しい母親と博人と同い年の美少女、小夜。働くのは執事役、家庭教師、家政婦2人、そして博人と同条件で雇われた同い年の樋野の合わせて6人。そこは隔離されたと言っていいほど田舎にある洋館で、しかし世の中から冷たい扱いを受けてきた博人にとっては、心安らかに過ごせる居心地のいい場所となっていく。そんななか、静けさを破るようにひとりが殺された。

小説のタイトルは、シャンソンの歌詞である『澄んだ泉にて(A la claire fontaine)』からつけられている。
「わたしは恋人を失った。わたしが彼にふさわしくなかったから、あの人がくれた薔薇の花束、それさえもわたしは拒んだ」
小夜が、作中でくちずさむフランス語の歌だ。
そして薔薇は、博人から見た小夜のことである。閉じ込められたかのような空間と穏やかな時間は、博人と、そして樋野を恋に落とすにはパーフェクトな環境だった。たとえそれが、仕掛けられた罠だったとしても。以下、本文から。

樋野は前髪をかき上げた。
「こんな罠があったとはな・・・飯と住むところに困らなきゃなんでもいいと思ったのに」
罠。小夜はまさに罠だった。心まで搦め捕られて動けなくなる。
樋野はつぶやいた。
「怖いんだ」「怖い?」
彼は下を向いて、何度も指を組み替える。
「俺には親父の血が流れている。自分がなにをするのかわからなくて怖い」

本を閉じ思ったのは、ミステリーっていいな、ということだ。
読んでいる間は夢中にさせてくれるし、最後にはきちんと裏切ってくれる。この小説には特に、ラストに驚かせてくれてありがとうと言いたい。ラスト、それまで読んできた世界が一変するミステリーの醍醐味を味わわせてもらった。

途中、栞が挟んである場所まで読み進めて、ああ、講談社文庫! と
うれしくなるのは、マザーグースの歌の栞がシンプルで素敵だからです。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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