はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『結婚』

井上荒野の連作短編集『結婚』(角川文庫)を、読んだ。
タイトルは「結婚」だが、テーマは、結婚詐欺だ。しかしミステリーの如く、その手口や巧妙さを描いたものではない。愛する男から金を騙し取られた女達。帰って来ないと判っていて待ち続ける女。何もかもを失い絶望する女。男を探し出そうと決意する女。彼女達に共通することは、詐欺師の男、古海(うるみ)への恋心を断ち切れないということだった。騙された女達の、そして手配師の女るり子の、さらには騙す側の古海の心の行方を、その危うさを、小説は描いていく。以下本文から。

「彼女、警察へ行くわよ、きっと」
「それはないよ」
「そんなことがどうして言えるの」
ある考えがるり子を捉える。古海は女が警察に行かないと思っているのではない。女が警察に行ってもかまわないと思っているのではないか。どうして? そうすれば終わりになるから。何が? いろいろなことが終わりになるだろう、その中には私との関係も入っている。
ばかげている。私と関わり続けるくらいなら捕まった方がましだとでもいうのか。まさか。そう思いながらるり子は唇を嚙んだ。ふるえるのを抑えるために。古海が、それまでとは違った目つきでちらりと見る。彼の敏感さは、たとえゴミみたいに思っている女にもきちんと発揮されるのだ。

女達は、心に空いた穴を埋めてくれた古海を、どうしても忘れられない。共謀して詐欺をしてきた、るり子でさえも。

大人になって、ずいぶんと経ってから気づいたことがある。
恋人がいたって、結婚していたって、愛する人がいたって、じゅうぶんに愛されていたって、人は、心に淋しさというスペースを持ち続けている、ということだ。恋をすれば、その淋しさを埋められると思ってしまいがちだが、そのスペースが、他の何かで満たされることはない。そして、それを知っていてもなお、淋しさを何かで埋めようとするのが、人、というものなのだと。

「西加奈子さん推薦」の文字に弱いわたし。衝動買いしました。
赤い糸、足首ってところが、絡んでいく気持ちを表してるなあ。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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