はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『空港にて』

村上龍の短編集『空港にて』(文春文庫)を、再読した。
久しぶりに羽田空港に行く際、出がけに本棚から引き抜いたのだ。
裏表紙の紹介文には「日本のどこにでもある場所を舞台に、時間を凝縮させた手法を使って、他人と共有できない個別の希望を描いた」とある。
コンビニ、居酒屋、公園、カラオケ、披露宴会場、駅前、クリスマスの街角、そして空港。主人公が見た周囲の人々を細かに描写しながら、それを見て思いつく心象風景を描くことで、心の奥底を炙りだしていく。空港にて、普段は目に留めない周囲の様子を、小説のように心のなかで描写していくのもおもしろいかも知れないと、鞄に入れたのだ。以下表題作『空港にて』より。

週刊誌を読んでいた男が席を立ったあとに、夫婦だと思われる初老の二人のうち男のほうが、わたしの向かいに座った。二人はいかにもこれから田舎に戻るというような身なりで、顔や腕が日焼けしている。男はしわの寄った白いワイシャツに赤のネクタイをして、袖が短すぎる焦げ茶色のスーツを着ていた。薄い髪を整髪料でべったりと後ろになでつけていて、大きなショルダーバッグを大事そうに抱えていた。女は小柄だったが背中が曲がっているのでその分余計小さく見えた。顔だけに不自然に白く化粧をして、白のブラウスの上に太い毛糸で編んだオレンジ色のカーディガンを着て、無表情だった。
その人について知らなくても顔つきや化粧や服装や態度からいろいろなことがわかるものだ。都市に住んでいるのか、都市の近郊か、それとも飛行機に乗らなければたどり着けない田舎か、だいたいわかる。身につけているものからはその人の経済状態がわかる。顔色や姿勢から健康状態がわかることもあるし年齢はだいたい一目で見当がつく。わたしは自分の手元を見た。左の手首にはカルティエの腕時計がある。風俗で働き始めてから唯一自分のために買ったものだ。他人はこの腕時計を見てこの女は風俗で働いているとわかるのだろうか。

久しぶりに行った羽田空港には、当然だが様々な人がいた。
自分のなかに深く潜る穴があるのならば、その場所にいる人すべてに、そういうものが存在するのだろう。その無数の穴に光が射すといいな、と思う。そして、射してくる光を逃さずに見つけよう、ともまた思うのだ。

単行本は『どこにでもある場所どこにもいないわたし』というタイトル。
文庫化にあたり、改題しています。

羽田空港国際線ターミナルです。

サマーバケーションの季節ですが、人出は少な目でした。

面白てぃしゃつ屋さん。外国土産っぽいですね。

草履や手拭い、扇子やうちわも並んでしました。
明日から、台北3泊4日の旅日記、スタートします。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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