はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『我が家のヒミツ』

本屋で見つけ、ぱっと笑顔になる本、というのがある。
最近ハマっている作家の新刊だったり、好きなシリーズの続編だったり。その「本屋でぱっ」を見つけた。奥田英朗の『我が家のヒミツ』(集英社)だ。
『我が家の問題』『家日和』と続いた家族を描いた短編シリーズ。帯には「家の中には秘密がいっぱい」とあり、その秘密に〈 ドラマ 〉とルビがふってある。秘密というほど秘密じゃない、どこにでもいそうな家族のストーリーだ。今回は、何かが起こったことで、知らなかった家族の一面を垣間見る。といった感じのテーマで統一された6編だった。

1話目『虫歯とピアニスト』は、歯科医の事務員、敦美、31歳が主人公。
急患で来た男性は、大好きなピアニストだった。秘かにドキドキしながら過ごす日々は、敦美にとっては思いがけぬプレゼントをもらったような気分。結婚して何年か経つが子どもができず、そのプレッシャーにまいっていたのだ。
以下本文から。

「ぼくの三十代は、寝てたけどね」
でも大西さんは答えてくれた。
「寝てたんですか」
「それはたとえだけど、少し蓄えがあったから、出来るだけ無為に時を過ごしていたことは事実」
「どうしてそうしようと思ったんですか?」
「そうねえ・・・、大袈裟な二十代を過ごしたから、その反動かなあ」
大西さんが遠い目をして言った。
「大袈裟な二十代?」
「そう。みんな若いときは自分の人生を大袈裟に考えるじゃない。過大評価もいいところなんだけどさ。ぼくもそうだった。自分の人生は有意義で輝いていないといけないと思い込んでた。でも実は地味な性格で、そのギャップに少し苦しんでた。そういう考え方が、十年間ブラブラしてたら変わった」
「どんなふうにですか?」
「人間なんて、呼吸してるだけで奇跡だろうって。ましてや服を着て、食事して、恋をして、ピアノを弾いて」

敦美は、夫にもピアニストの大西さんのことは、うきうきとしゃべっていたが、こと子どものことになると、悩んでいることさえ話す気持ちになれず、夫がどう考えているのかも判らずにいたが・・・。

何かが起こった時に、誰かの知らなかった一面を見て驚く。そういうことは、ままある。それが家族だとしても、知らない面を垣間見ることも、たぶん珍しくないのだろう。よく知っているつもりでも、たがいの胸のうちまでは判るはずもないことなのだ。だから人間って面白い。そんな短編集だった。

ところで、我が家のヒミツは? ふふふ。何でしょう。

シリーズ3作通して、同じ家族が描かれている短編もあります。
前作、前々作でマラソンやロハスにハマった妻が、市議会議員に立候補。
『妻と選挙』は、奥田と同じく直木賞作家の夫が主人公です。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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