はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『サラバ!』

西加奈子の『サラバ!』(小学館)を、読んだ。
冒頭文から、物語のなかにひき込まれた。読みながら、わくわくした。
そして、自分の読書ポリシーは間違っていなかったと叫びたくなった。テーマも、教訓もいらない。本とは、まずは面白くあるべきものなのだ。
「面白くない本は、読まなくていい」「読書は、娯楽だ」
何度も子ども達に、言って聞かせたっけ。そして彼らは、わたしよりも遥かに多くの本を読む大人になった。
もし子ども達に読書の楽しさを伝えたいのなら「国語力が伸びるよ」「ためになるよ」などとは口が裂けても言わず、ぜひ「読書は、娯楽だ」と言い続けてほしい。どうしても読んでほしい本がある場合には「この本は、子どもが読むには面白すぎるから絶対に読んではいけない」と言い置き、鍵つきの引き出しに仕舞うのもいいかも知れない。(そして、感想は聞かない。これが基本だ)
しかし、読み終えて呆然とした。『サラバ!』が描くものは、そのテーマがしっかりと、もう地球をがんじがらめにするほどに強く根をはった骨太のものなのだった。二の次だと思っていたテーマ性は、面白さに上回るほどインパクトの強いものだったのだ。

『サラバ!』の語り手は、ひとりである。圷歩(あくつあゆむ)が生まれた時から、37歳の「今」に至るまでを、歩が語る。その歩の物語の主要登場人物を、文中の言葉で紹介していこうと思う。

まずは母、奈緒子。歩を産んで退院した時の写真から。
「ピンボケしているので、はっきりと確認出来ないが、母は唇を真っ赤に塗っているようだったし、つまり彼女は、母になっても自分のスタイルを変えないタイプの人間だったのだ。短いスカートを穿きたいと思えば穿いたし、それに合うヒールの靴を、ぺたんこの靴に履きかえることもなかった」
そして姉、貴子。長らく母と対立してきたことについての彼女の言葉。
「母親って、お腹を痛めて産んだ子を愛するって言うけど、私はそうじゃないと思うわ。お腹を痛めれば痛めるほど、苦しめば苦しむほど、その痛みや苦しみを、子供で取り返そうとすんのよ。分かる? あんたはいいわよ、麻酔してなーんにも分からない間に、するっと生まれてきたんだから、何も取り戻す必要ないの。ほら、あんたって、全然期待されてないじゃない? でも私は、覚えてないから迷惑な話だけど、だいぶあの人を苦しめたわけでしょ、だからあの人は、私から何か取り戻したいのよ。あんなに苦しんだんだから、せめて可愛い子であってほしい、とか、優秀であってほしい、とか。ご希望に添えなくて、申し訳ないけどね」
そして父、憲太郎。圷家で、磐石な態勢で長きに渡り顕在していたモノ。
それは「母vs姉、そして、その間をオロオロと揺れ動く父」なのだった。

そんな家族のなかにいて、歩は空気を読む子どもに育っていく。
幼稚園時代に流行ったクレヨンを取り換える遊び(一番好きな男子には「青」を、一番好きな女子には「ピンク」を渡す)についての記述。
「僕のクレヨン箱は非常に鮮やかだった。数本の青とたくさんの水色、黄緑色、緑などの美しい色たち。僕は決して一番人気の園児ではなかったが、2番か3番につけていた。そしてもしかしたら、そのほうがアンチもいる1番の〈すなが れん〉より優れていたのではなかろうか」

『サラバ!』は、そんな周囲の空気を常に読みつつ成長した歩と、破天荒な姉、幸せになろうとし続けた母と幸せになることを拒んだ父の物語である。

表紙は、著者、西加奈子による16枚の絵を分割し組み合わせたものです。
圷家が家族4人で過ごしたイランやエジプトの風景も。それはすなわち西加奈子が生まれたイランや、幼少期を過ごしたエジプトの風景なのですが。
小学館のサイトから、その16枚の絵を見ることができます。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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