はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『コンビニ人間』

芥川賞を受賞し発売された『コンビニ人間』(文藝春秋)を、読んだ。
著者は、村田沙耶香。いまだコンビニでバイト中の36歳の女性だそうだ。

古倉恵子36歳は、18年前、駅前のコンビニ、スマイルマートが開店したその時からアルバイトを続けている。コンビニ以外の場所では、これまで働いたことはなく、就職もできなかった。子ども時代にさかのぼれば、彼女は少し奇妙がられる子どもだった。以下本文から。

例えば幼稚園のころ、公園で小鳥が死んでいたことがある。どこかで飼われていたと思われる、青い綺麗な小鳥だった。ぐにゃりと首を曲げて目を閉じている小鳥を囲んで、他の子供たちは泣いていた。
「どうしようか?」一人の女の子が言うのと同時に、私は素早く小鳥を掌の上に乗せて、ベンチで雑談している母の所へ持って行った。
「どうしたの、恵子? ああ、小鳥さん・・・!どこから飛んできたんだろう。かわいそうだね。お墓作ってあげようか」
私の頭を撫でて優しく言った母に、私は「これ、食べよう」と言った。
「え?」
「お父さん焼き鳥好きだから、今日、これ焼いて食べよう」

その後も恵子の数々の言動や行動は問題視されるが、彼女には何が問題なのかが判らない。母親の「どうしたら『治る』のかしら」という言葉に、自分には修正すべき何かがあるらしいと感じるだけだ。中学以降、両親に心配をかけまいと、彼女は友達も作らず必要最小限しか口を利かず大学を卒業する。そして大学時代からバイトしていたコンビニで働き続けているのだった。
自分で働いて、誰にも迷惑をかけず暮らしているのだから、それでいい。本人に変化を望む気持ちはない。満たされていると言ってもいい。しかし周囲は誰ひとり、そうは考えないのだった。そんな折り、コンビニをクビになったダメ男、白羽が、恵子のアパートに転がり込んでくる。以下本文から。

「次に叱られるのは、古倉さん、あなたですよ」
「私・・・?」
「何で無職の男を部屋に住まわせているんだ、共働きでもいいが何でアルバイトなんだ、結婚はしないのか、子供は作らないのか、ちゃんと仕事しろ、大人としての役割を果たせ・・・みんながあなたに干渉しますよ」
「今まで、お店の人にそんなこと言われたことないですよ」
「それはね、あんたがおかしすぎたからですよ。36歳の独身のコンビニアルバイト店員、しかもたぶん処女、毎日やけにはりきって声を張り上げて、健康そうになのに就職しようとしている様子もない。あんたが異物で、気持ちが悪すぎたから、誰も言わなかっただけだ。陰では言われてたんですよ。それが、これからは直接言われるだけ」
「え・・・」
「普通の人間っていうのは普通じゃない人間を裁判するのが趣味なんですよ」

はて。「普通」って、何だっけ。周囲と同じことだったっけ。
恵子は「普通」とは言い難い女性だが、恵子に「普通」を押し付け、求めようとする周囲の人達も「普通」だとは思えない存在だった。
結婚して子どもを生んだから幸せ、ではなく、結婚して子どもを生むのもまた幸せのひとつなのだと、その違いを混同することなく判っていたいと思った。
それにしても「人」である以上に「コンビニ店員」として生きていこうとする恵子がコンビニで働くさまはいい。何よりコンビニ運営が優先という潔さが心地よい。そんな場所を持つ彼女がちょっと羨ましいような気持ちになった。

表紙は、金氏徹平の現代アート『溶け出す都市、空白の森』より。
タイトルに使われた黄色に、理系思考アピールを感じました。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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