はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『うつくしい人』

西加奈子『うつくしい人』(幻冬舎文庫)を、読んだ。
自己顕示に苛まれ、常に他人の目を気にして生きてきた百合は、29歳。つまらないミスから会社を辞めてしまい、焦燥感にいてもたってもいられなくなり、浮世離れした離島のホテルで数日過ごそうと旅に出る。
百合の背後に、幼い頃からあったもの。それは、優等生で美しい姉の存在だった。しかし、その姉も高校時代にいじめにあってから家に引きこもっている。姉のようにはならず、社会に出てきちんと生活している自分を心の支えにしてきた百合だが、仕事を失くし、いとも簡単に心のバランスは崩れていった。
そんな気持ちを抱えた百合は、旅先の離島のホテルで、そこで働くバーテン坂崎と、ひとり旅するドイツ人マティアスに出会う。彼らも彼らの悩みを抱えていて、百合はそれを自分のものとは交わることのない平行なものだと知りながらも、彼らと過ごす時間に、心が解き放たれていくのを感じていた。
以下、客が置いていった本を貯蔵してある図書館で、3人が本に挟まった写真を探すシーンから。

「うーん。でも、本を置きに来るんです。吸収するだけじゃなくて、置いていくことも必要なのかもしれない、と思います」
坂崎は、しみじみとそう言った。何故かその言葉は、私の頭に素直に入ってきた。吸収すること、身につけることだけが、人間にとって尊い行為なのではない。なにかをかなぐり捨て、忘れていくことも、大切なのだ。

百合には、この図書館が、本だけではなく心の錘を置いていく場所だと思えた。もしかしたら人は、そういう場所を求めて旅をするのかも知れない。そしてそれは、たぶん場所ではない。錘を置いていける時かどうかは、その人にしか判らなくて、その時を探して旅をするのだと、読み終えてしみじみ考えた。

「うつくしい」とは言えないような、顔をしかめた表情のふたり。
なのに何故だか、とても魅力的に映る女性達の絵です。
読み終えてから見ると、読む前とは違った印象を受けました。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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