はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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蛙と虹と喫茶店の薄暗いカウンター

たぶん同一人物だと思われる。5日ほどでずいぶん見た目も変わったが、同じ場所にたたずんでいる姿は同一オーラを発していた。蛙を人物と言うならば。
夕方庭に水を撒こうと水道の蛇口に手を伸ばしかけ、わっと驚かされた。そこが涼しいのだろうか。蛇口にひっかけておいたホースに、如何にもホッとした様子で、うたた寝でもするかのようにじっとしていた。ニホンアマガエルだ。

餌となる羽虫などにも不自由しない、彼らの季節。太って緑も濃くなり、貫録も出て来た。田んぼではなく、我が家の庭を住処と決めたのだろうか。それともはるばる散歩に来ているのだろうか。夜そこらじゅうの田んぼからわんわんと響き渡る合唱には、彼も参加しているのだろうか。
「悪いけど、ホース貸してね」
我が家のホースだが、つい彼の物のような言い方になった。もちろん遠慮はせず、ホースに手をかける。すると彼は大きく弧を描くように跳ね、ドウダンツツジの影に消えていった。後ろ姿を見送り、料理用にと植えたばかりのバジルやローズマリー、勝手に芽を出したイタリアンパセリや友人に貰ったレモンバーム達が待つ庭に、たっぷりと水を撒きく。水しぶきに小さな虹がかかった。
明日も姿を現すだろうか。今度顔を見かけたら、名前でも付けようか。ホースがお気に入りのようだが『ホース』じゃ馬っぽい。蛙に似合う名前を考えておこう。水道水が作り出す虹を眺めつつ、考えを巡らせ思い出した。

19の頃にバイトしていた喫茶店の常連、山田くんに本を薦められた。水上勉の『ブンナよ、木からおりてこい』(新潮社)ブンナは、トノサマガエルだ。平穏な池周辺の環境から、高い木の上という外へ出ようと挑戦する若い蛙。
「山田くん、どうしてるかな」少し年下の可愛い男の子だった。
ふいに、バイトしていた喫茶店の薄暗いカウンターを思い出した。庭の蛙を見て、そんな風に今わたしが思っていることなど、彼は思いもよらないだろう。
ホースで休む蛙と小さな虹。そして、記憶のなかの喫茶店の薄暗いカウンター。我が家の庭には、様々なものがある。

5月18日 頭は日影に入っていますが尻隠さず? 

5月22日 ニホンアマガエルは、周囲の色に合わせて変色するそうですが、
青いホースの上にいても、さすがにブルーにはならないんですね。

しかし黄緑色も鮮やか! 蛇口に近づくと、ジャンプしました。
山形では蛙を『びっき』と呼ぶ地方もあるそうですが、
「そ、その名前だけは、やめましょう」と、びっきー。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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