はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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歯医者の椅子

歯医者に、通い始めた。
山梨に越して来てから3件目にして、ようやく信頼できる歯科医院に巡り合い、最近はトラブルもなかったので、定期健診と歯石の掃除のため半年に一度診てもらうだけだったが、先週くらいから奥歯に違和感を覚え、痛みはないのだが診察してもらった。すると、左上の一番奥の歯が、被せてある銀歯のなかで真っ二つに割れてしまっていた。神経を抜いて20年以上経った歯には、よくあることらしい。もう、抜くしかないそうだ。嬉しいことではないが、受け入れるしかあるまいと抜歯の予約を入れ、帰ってきた。

「歯医者の椅子って、特異な場所だよなぁ」
そこに座ると、いつも思う。
待合い室で読んでいた小説も物語途中で遮断され、さっきまで覗いていたケータイも鞄のなかで眠りに入る。口を開けたまま返事もできない状態も長く、痛かったら手を上げてと言われるが、痛い以外の意思表示は難しく、何度か繰り返すうちに返事をすることへの諦めが居座り始める。そうすると、どんどん自分一人の世界へ入っていく。
そこでいつも思い出すのが、アンデルセンの童話『パンをふんだ娘』だ。
ドレスを汚すまいと、道に広がった水たまりにパンを投げ入れ、踏んづけて渡ろうとした高慢な娘。彼女はパンを踏んだ途端、水たまりのなかの世界に落ち、地の底で暮らすことになる。
歯医者の椅子で一人の世界へ入っていくときの感じは、地の底へ落ちるイメージを呼び起こす。落ちて落ちて、何処までも落ちていくアトラクションの椅子に座ったような、重力の変動を思わせるのだ。

今通っている歯科医院は、治療してもらう椅子の前に窓があり、ブラインドの向こう側には、駐車場と、そこを歩く人と、空が見える。目の前が明るくひらけていることにいつもホッとする。決して今の歯科医院が地の底へ落ちるイメージを作った訳ではない。そういう感覚って、子どもの頃に見た夢を覚えているようなものなのかも知れない。

で、本日が、その抜歯の日。
今日はお酒、ダメって言われるだろうなぁ。痛くても腫れてもいいから、飲みたいなぁ。飲んじゃおうかなぁ。じつは真っ先に、何より真剣に画策する事案は、そこなのである。こういうことでもないと自覚すらしないが、掛け値なく根っからの酒飲みなのだ。地の底に落ちることはなくとも、酒の水たまりで溺れる自分は容易に想像できる。それもまたよしと思いつつ、画策は続くのだ。

田舎の暮らしもいいけど、ときに都会のネオンが恋しくなります。
これは、東京出張の際、久々にオーダーしたソルティドッグ。
ジュースのようにくいくい飲める、軽いカクテルでした。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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