はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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びっきーに届いた年賀状

びっきーに2通目の年賀状が届いた。
1通目は、かかりつけの動物病院から。そして2通目は、遥々オーストラリアの娘から。アボリジニアートの絵ハガキだ。
「明けましておめでとう」から始まり、「写真見たよ。びっきーは元気そうだね。2月に帰ったら一緒に散歩に行こうね」とかかれている。
父でも母でも妹でもなく、びっきー宛てというところが何とも彼女らしい。びっきーに見せると、まさか娘の匂いがする訳はあるまいが、ひとしきり匂いを確認していた。
「きみの飼い主は、今頃、何してるんだろうねぇ」
びっきーの頭をなでたが、返事はない。
 
2月はすぐそこまで来ているんだなと、あらためて思う。1年など本当にあっと言う間だ。わたしが小さな毎日を変わりなく過ごしているあいだに、彼女は、日本ではできない様々な体験をしていたのだろう。もうすっかり、背中に羽根が生えているかもしれない。びっきーに届いたエアメールのように、世界中何処へでも飛んで行けそうなほどに、大きく成長した羽根が。
「それも、いいか」
ふたたび、びっきーの頭をなでたが、やはり返事は返ってこなかった。
「よくない」と彼が思ったかどうかは定かではない。

ややっ!? これは姫の匂いが! 姫、何処におられるのですか?
びっきーは、淋しいです。姫ぇぇぇぇぇ。

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のんびりいこう

雪の日。長靴を履いてびっきーと散歩に出かけた。
びっきーは雪が大好きで、雪の上をサクサク音を立てリズミカルに歩く。雪を食べたり、蹴散らしたり、顔を突っ込んで匂いを嗅いだり、遊びながら散歩するので、いつもの道に倍の時間がかかる。
北風はなく穏やかな陽が差し、青空が見え始めた。わたしもびっきーペースの、のんびりとした気分になり、雪をかぶったアメリカセンダングサや、セキレイが尻尾を振る様子や、ジョウビタキの羽根に入った白いラインを眩しく眺める。鳥達も心なしかいつもよりのんびりしているように見え、近くで眺めていても慌てて飛んで行ったりしない。
師走。やること、やらなきゃならないことが、列を成して並んでいる。何かと忙しく慌ただしい。だが雪の休日、びっきーとのんびり散歩して、のんびりペースを思い出した。
「気持ちいいなぁ」と声に出してみる。
わたしの声に驚いたのか、山鳩が3羽、冬枯れの草むらから飛び立った。
 
のんびりペースを思い出すと、いったい何をせかせかとしていたんだろうと可笑しくなる。
のんびりと夕飯に娘の好きな八宝菜を作り、のんびりと薪を運んで火を燃やし、のんびりと娘を図書館に迎えに行き、のんびりと風呂を沸かした。
柚子湯にのんびりとつかり、考えた。やっていることも時間もたぶん変わらない。だったらのんびりいこうよと。でもそれがなかなかできないんだよなぁ。

僕はのんびりしていた訳ではありません。
ん!? この匂いは! んんっ?? 分析解明に忙しいんです。
雪が匂いを消してしまうので、たいへんなんです。
顔を突っ込んで遊んでいるなんて、ひどい誤解だ。

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たまたま組んだペアだって

オーストラリアの娘からびっきーの絵が届いた。
彼女は絵が苦手だったように思うが、似ている。
12月に帰る予定を2月に延ばしたのは彼女だが、ホームシックならぬびっきーシックだろうか。これまでも度々びっきーに会いたいとfacebookでつぶやいているのを見かけた。
彼女がびっきーを可愛がる様は、わたしにはとても微笑ましく映る。みずがめ座的冷たさを持つわたしは、びっきーとも適度に距離を置き、同じ部活でたまたまペアを組んだ友人のごとくつきあっている。悪い奴じゃないとおたがい分かってはいるけれど、相容れないところを持ち合わせているペア。
 
しかし、決して仲が悪いわけではない。最近びっきーは、軽トラに飛びかからずお座りして我慢することを覚えた。と言うのも、何故か4歳位から走って行く軽トラに限り、飛びかかるようになってしまったのだ。乗用車には目もくれない。軽だからという訳でもない。軽トラックオンリーに反応する。散歩中、農作業の軽トラが2、3回は通るし、本気で飛びかかっていくので、ものすごく危険だ。びっきー本人が。
それでわたしは根気よくジャーキーを持ち歩き、軽トラが通る前にびっきーを脇に座らせて待たせ、通り過ぎた時にジャーキーをあげるようにした。今では、軽トラ=ジャーキー。呼ばなくても自分でわたしの脇に座るようになった。ちぎったジャーキーを放り投げると、嬉しそうに空中キャッチする。娘が教えたこの技は健在だ。

たまたま組んだだけの、特に気が合う訳じゃないペアだって、時と共にその距離は、わずかではあるかもしれないけれど縮まっていくものなのだ。

夫は、軽トラが通り過ぎてもジャーキーをあげません。
「あれ? あれ? ジャーキーですよね?」と、びっきーは催促します。
夫は、途中でトレーニングをするので、それを待っていたご褒美に、
ジャーキーと決めているようです。
「統一性がないなぁ」とびっきーが思っているかどうかはわかりません。

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犬も食わない?

夫と喧嘩した。びっきーのことでだ。
夕方の散歩。帰路西陽に向かい、わたしはびっきーと歩いていた。西陽の眩しさに目が眩んで前は見えなかったが、もう家に着く辺りだったので安心しきってのんびりと歩いていた。その途端だ。わたしの後ろにいたびっきーが、勢いよく前に向かって走り出した。知らない散歩の犬がいたのだ。何が起こったのがわからず、そのままわたしのリードを持った右手は強い力で引っ張られた。伸縮性リードで引っ張られるまでに1秒ほどあったおかげで、びっきーを止めることはできたものの、肩を痛めた。夜帰ってきた夫にそれを話した。
「また引っ張られて、肩傷めちゃった」
ただ一言「だいじょうぶ?」と優しい言葉をかけて欲しかったのだ。けれど夫の反応は予測不可能な方向に向かって行った。
「また? 何で注意できないの? びっきーが引っ張ることはわかってるのに」
「だって、西陽で前が見えなかったんだよ」
「注意してないから、引っ張られるんだよ」
さらに夫はジャーキーは褒める時以外にあげるなとか、後ろを歩かせないとだめだとか、言いたい放題。
「もういい。びっきーの散歩なんか行かない」わたしはひねくれて言った。
「行かなきゃいいでしょ」夫も売り言葉に買い言葉だ。
わたしはいじけて先にベッドに入り眠った。眠りながら思い出した。そうだ。彼は心配すると怒ってしまう性質なのだと。
 
「おはよう!」翌朝は明るく挨拶した。
「おはよう」夫も夕べの喧嘩などなかったように挨拶を返してくれた。
そして彼は、会社に行く前にびっきーを散歩に連れ出し、3日分の薪をリビングに運んでくれた。
わたしは肩にフェイタスを貼り、今日もびっきーと散歩に行く。

初冬は大好きな季節です 暑くないのが何よりです
落ち葉に埋もれてのんびり日向ぼっこ いいですよね~
夫婦喧嘩? 食べたくありませんね  そんなもの
でも ジャーキーより美味しいのかな?

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びっきー、その名の由来

我が家の愛犬びっきーは、純粋な(?)雑種だ。しかしその名前だけは雑種ではない。ビーグルのびっきー。ビーグルから付けられた名なのだ。
犬が欲しいという10歳の娘のために、友人が、もうすぐ赤ちゃんを産むという母さん犬を紹介してくれた。夫婦ともにビーグルで、何度も出産しているという。見に行くと母さん犬は重たそうなお腹を横たえていたが、わたし達を見ると、吠えるでもなく嬉しそうに近づいてきた。父さん犬もおなじくで人懐っこい。娘は母さん犬を撫で、お腹の子犬に名前を付けた。
「びっきー」
生まれる日を心待ちにし、何度かビーグル夫婦を見に行った。しかし、そのうち妙なことが起こった。母さん犬のお腹が少しずつ縮んできたのだ。そして子犬を生んでもいないのにすっかりもとの大きさに戻ってしまった。
「想像妊娠だったみたいだ。悪かったね」
飼い主さんは言った。犬でも赤ちゃんが欲しくなり想像妊娠することがあるのだそうだ。びっきーはビーグルからは生まれなかった。
びっきーはその頃たぶん何処かで捨てられて、里親の会に引き取られていたのだろう。そしてビーグルが生まれてこなかったおかげで娘の犬になった。
「びっきー」
ビーグルじゃない子犬を娘は愛おしそうに呼んだ。

昨年の冬 上の娘と一緒に 
うれしそうにお手するびっきー

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びっきーとの出会い

昨日のびっきーの散歩には毛糸の帽子をかぶって臨んだ。
寒い。今からそんなことを言っててどうするんだ? と思うが寒いものは寒い。つい先週まで帽子は紫外線対策用だったのに、耳を温めるものに変わった。しかし、フリースを着て、毛糸の帽子をかぶり、手袋をすれば、まだまだ快適に散歩できる。冬本番はずっと先なのだ。
びっきーはと言えば、このくらいの寒さは何とも思っていないようだ。
「北海道犬の血が入っていますね」
躾を教わったブリーダーは、びっきーの足を見て言った。
真冬でも外の犬小屋ですごす彼は、凍った雪の上をサクサク音を立てて歩くのも大好きだ。
「霜焼けになるよ、びっきー」と言っても、
「霜焼けって何ですか?」と素知らぬ顔だ。
もし寒さ対策のためにワンちゃん用の服など着せようものなら、狂ったように抵抗するだろう。
「何するんですか? 窮屈なのはダメなんです!」
 
捨て犬だったびっきーは、里親の会が飼い主を募るイベントで、10匹ほどの子犬達と一緒にケージに入っていた。犬を飼いたいと望んでいた10歳の娘は、じっと子犬達を見つめ、やがてびっきーを抱き上げた。
『縁』たった一文字のこの言葉の意味の何と深きことよ。
びっきーは、最初から安心しきった様子で娘に抱かれていた。
「びっきー」
娘は子犬の名を呼んだ。名前はもう、会う前から決まっていたのだ。彼女が差し出した小さな手のおかげで、彼は今、けっこう幸せなんじゃないかな。
毛糸の帽子をびっきーのリードの隣にスタンバイさせ、冬支度がまたひとつ完了した。

娘の部屋に飾ってある12年前のびっきーの写真

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箱から出よう

週末はいつも夫と歩く。朝夕のびっきーとの散歩だ。
ウォーキング中のご近所さんと立ち話したり、夕焼けを眺めたり、ワイン用葡萄収穫中のほろ酔いになりそうなほど香り立つ空気を一緒に吸ったり、読んだ本のことを話したりしながら、びっきーといろんなコースを歩く。
 
歩きながら『自分の小さな「箱」から脱出する方法』(大和書房)という読んだばかりだという本の話を夫から聞いた。
「人は箱に入ってしまうと言い訳を始めるって、かいてあるんだ」
「箱に入るって? 自分の殻に閉じこもるとか?」
「それがちょっと違って、うーん。自分の気持ちを裏切って自分を正当化することかな。たとえば、赤ん坊が泣いてて妻は眠ってる。疲れて眠ってるんだな、手伝ってあげたいなと思う。でも自分だって仕事で疲れてる」
「そこで言い訳を始めるんだ」
「そう。俺は仕事でがんばってるとか、なのになぜ妻は起きないんだとか、そもそも子育ては母親の仕事だとか。だから悪いのは妻だと思った瞬間箱に入ってしまうって感じかな」
「自分を正当化するために、言い訳しなくちゃならなくなるんだね」
「その箱に入った人同士が話をしてうまくいくかってとこがキーなんだ」
「赤ん坊をどうするかは別にしても、確かに自分を正当化している人同士じゃ話し合いにはならないね」
「うん。箱に入った人同士が話し合っても、箱がぶつかるだけなんだよ」
「箱から出なくちゃならないね」
「まずは相手を理解しようと考えて、ようやく箱から出られるんだ。それを読んで思った。君は子ども達に対して箱に入らずに接してるって」
「いつも肯定するところから始めたいとは思ってきたけど、箱に入ってたことも多かったんじゃないかな」
それだけ話して、しばらくふたり黙って歩いた。
夫は仕事に必要だと思って買った本だと言っていた。彼は今月、末娘の誕生日と日にちを合わせ2つ目の会社を設立した。
 
わたしは箱に入っていないだろうか。自分を正当化するために誰かを否定していないだろうか。否定し追いつめていないだろうか。箱がぶつかるだけの関係なんて悲しい。たぶん夫もそう思いながら歩いていたと思う。びっきーはどうだかわからないけれど。

僕はいつだって箱には入りません 入るのは犬小屋だけと決めています
おとーさんとおかーさんが 箱に入っている姿は時々目にします 
僕がリードを引っ張ったり 拾い食いしたりするのを否定します
どうしてかな? 肯定するところから始めようよ

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彼とわたしのディスタンス

オーストラリアにいる22歳の娘がメールのたびに聞いてくることがある。
「それで、びっきーは元気?」
彼女の10歳のバースディにプレゼントした愛犬のことだ。
彼はとても元気だ。元気すぎるくらい元気だ。12歳のおじいちゃんとは思えないほどに本当に元気だ。彼女は知っていることだが、おかげでわたしは骨折もしたし、テニス肘にもなり1年間痛みが引かなかった。
間違えてもびっきーのせいで、と言ってはいけない。
「犬のせいではありません。飼い主の不注意です。犬に悪意はありません。しつけが行き届いていないために起こった事故ですから」
と、愛犬家さん達にたしなめられるのがオチだ。
その後も彼の瞬発力はまったく衰えていない。伸縮性のリードに替え、急に引っ張られた場合に備え集中力を欠かないよう気をつけて散歩しているが、擦り傷程度のケガは絶えない。
自然とわたしは彼とは距離を置き、みずがめ座らしいクールさで接することになる。
朝夕散歩し、おすわりをすれば頭を撫で、水を切らさずエサを与え、注射に連れて行き、フィラリアの薬を飲ませているのもわたしだが、彼はその距離を正確に把握し、彼もまた同じだけの距離を置いてわたしに接してくる。
帰宅したときの反応にその差が顕著に出る。夫と上の娘の場合は、犬小屋から出てきて笑顔で尻尾を振る。下の娘の場合は、犬小屋の中で顔だけ上げる。ところがわたしの場合には、微動だにしない。目線を上げることすらしない。
「びっきー。わたしってそんなに冷たくしてる?」
じつは心身ともに傷ついているのは、こちらの方なのだ。
オーストラリアから娘が帰ってきたら、びっきーは大喜びし、ちぎれんばかりに尻尾を振ることだろう。悔しい。

夏毛に生え変わりちょっとスリムになりました

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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