はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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サンドイッチに欠かせないもの

サンドイッチを食べていつも思い浮かべるのは、研いだばかりのよく切れる包丁だ。村上春樹の小説『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(新潮社)で印象的なシーンがあったのだ。
何ということのない、読み飛ばしてもストーリーとは関係のないようなワンシーンだ。それも読んだのは20年以上も前になるというのに、その時わたしのなかに作られたイメージはいまだ変わることはない。

「私はソファーに対するのと同じようにサンドウィッチに対してもかなり評価が辛い方だと思うが、そのサンドウィッチは私の定めた基準線を軽くクリアしていた。パンは新鮮ではりがあり、よく切れる清潔な包丁でカットされていた。とかく見過ごされがちなことだけれど、良いサンドウィッチを作るためには良い包丁を用意することが絶対に不可欠なのだ」

サンドイッチの、パンでもバターでもハムでも胡瓜でもなく、食卓に登場することのない包丁が大きな役割を担っているというところに焦点を当てた意外性。それ故なんでもないシーンがこうしていつまでも残っているのだろう。
変化したサンドイッチのイメージと共に、小説のワンシーンの面白さも感じる。たとえそのサンドイッチの(彼はサンドウィッチとかいているが)シーンが特別印象的だと感じる読み手がわたしひとり、もしもたったひとりだったとしても、人ひとりの小さな何かを変えたことに変わりはない。わたしにとって、そんな文章の魔法を感じるワンシーンだった。
「久しぶりに、包丁を研ごうかな」
村上春樹の世界へと思いを馳せつつ、ブランチのサンドイッチを口に運んだ。
 
サンドイッチ屋さんのBLTサンド。 
1985年出版『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』は箱入り。
その箱も、かなり日焼けしていますね。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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