はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『糸杉』(短編集『A』収録)

ぞくり、とした。中村文則の短編集『A』(河出書房新社)を、読んでいる。
図書館で手にとった時から、見かけよりもずしりと重たいような、持っているのを忘れるほど軽いような、不安定な感覚に陥り、カウンターに出さずにはいられなかった。彼の本はベストセラーとなった『掏摸』とデビュー作『拳銃』を読んだが、内容がけっこう重かったので、短編ならと借りたことに起因しているのかも知れない。

13編あるなかの冒頭の短編『糸杉』は、風俗嬢の後をつける男の話だ。後をつけることに、衝動以外のものはなく、特に何をしようという気持ちもない。ただ「この女」と思った女性の後をつけると、何故か風俗店で働いていることが判明する。服装が地味でも、何処で見かけても、いつも終着地点は風俗店なのだ。以下、本文から。

僕の想像は終わり、僕の内面が急速に消えていく。初めからわかっている。その領域に行くには、僕にはまだ孤独が足りない。糸杉は消えている。糸杉に類似した何かも。僕の内面はまだ日常の粋を出ない。日常の輪郭の中で、閉じている。だからこそ、フライングをしている。僕は周囲を気にし始めている。恐怖すらも感じている。卑俗な日常に対して。

「糸杉」は、ゴッホが自殺する1年前に描いた絵だ。「僕」は理由も判らず「糸杉」に魅かれる自分に戸惑っている。女をつけるのと同じように、いや、それ以上に「糸杉」を観に行かずにはいられない衝動に駆られるのだ。

「孤独が足りない」というフレーズが、読んだ途端に、すっと胸の奥に収まった。まるでずっと、そこに居たみたいに。足りない孤独と、狂気を、わたしは自分のなかに見た。

ひとり、バーボンソーダを飲みながら、読んでは閉じ、読んでは閉じ。
栞と見返しは濃紺でした。夜の闇を思わせるような。

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水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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