はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『賢者はベンチで思索する』

近藤史恵のコージーミステリー『賢者はベンチで思索する』(文春文庫)を、読んだ。コージーミステリーというのは、殺人などは起こらない日常のなかの小さな謎解きをするような推理モノで、ゆったりとした居間のソファで紅茶などを楽しみながらくつろいで読めるという意味がある。
主人公は、21歳の久里子。就職が思うように決まらずファミレスでバイト中。探偵役は、窓際の席でぼんやりと何時間も粘る老人、国枝。認知症気味だと周囲に心配される国枝だが、公園で久里子と会う時には、まるで別人のように頭がキレるのだった。
その公園で、毒入りの餌を犬が食べる被害が多発。久里子の愛犬アンも被害に遭う。久里子の弟、浪人生の信は毎晩夜中に出かけていくが、その事件に関係しているのだろうか。そしていったい、国枝は何者なのか。国枝と関わった3つの事件が、生きあぐねていた久里子を少しずつ変えていく。以下本文から。

いつか現実を受け入れることができたら、彼に話そう。久里子はそう考えた。さっき、小さな声を出してしまったのは、以前も同じことがあったのを思い出したからだ。
いちばん最初にあの人とことばを交わした日。久里子はとても悲しい気分だった。美晴に、子犬が死んだことを知らされて。でも、その子犬は久里子にとっては会ったこともない子犬だから、自分が悲しいのはおかしいと思っていた。
あの人は言ったのだ。
それでも、きみは悲しいのだろう、と。
その一言で、久里子の気持ちはとても楽になったのだ。
さっき、弓田くんも似たようなことを言ってくれた。
― でも、七瀬さんが落ち込んでるのも事実だろ。
ときどき、久里子は自分の気持ちがわからなくなる。悲しいのか、腹立たしいのか、つらいのか、そんなごっちゃになった感情が、だれかの一言でうまく整理できることもあるのだ。

家族でも恋人でも友人でも、知らない面があるのは当然のこと。その人を信じられるか否かは、共に過ごした時間や、交わした言葉や、その温度や、そういったもので測るしかない。いつも隣りにいる人を不意に疑ってしまうような日常のなかの小さな謎の数々は、たぶん誰のそばにも潜んでいる。

蜷川実花 × 文春文庫『夏の青春フェア2016』に選ばれた文庫。
こういうフェアで、好きな作家の本を手にとってもらえる機会が
増えることは、ファンにとってうれしい限り。
近藤史恵作品を読んだのは、数えたら17冊目でした。
全くはずれのない、圧倒的に信頼できる作家さんです。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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