はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々
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『ファミレス』

重松清の長編小説『ファミレス』(角川文庫)を、読んだ。
夫婦モノであり、料理小説でもある。珍しいなと思ったのは、その夫婦の年齢が50歳前後。主役の夫婦は、子ども達が就職や進学を機に家を出て夫婦二人になったところ。同年代と言ってもまあいいであろうお年頃なのだ。
中学校教師、宮本陽平(48歳)は、息子を地方大学に送りだしたその日、妻、美代子の署名入りの離婚届を見つけてしまう。夫婦関係に何も問題はないと思っていただけに、愕然とする陽平。料理が唯一の趣味である彼は、キッチンに並んで料理しながらも、妻の様子を気にかける毎日となった。
料理友達で、雑誌編集長の一博と惣菜屋を営む康文も、それぞれに家庭の悩みを抱えていた。小説は、陽平、一博、康文の3視点で紡がれていて、さらに陽平は職場の中学でも心配事に追われ、物語は、彼のやるせない気持ちを置き去りにしたまま進んでいくのだった。以下本文から。

「おひとりさま」で座っている中年男性の面々も、かつてはカミさんや子どもたちとファミリーレストランのテーブルを囲んだことがあったのだろうか。
窓の外に目を移すと、雨はいつのまにか本降りになっていた。かなり強い雨脚だ。さっきまでの中途半端な降り方よりも、いっそこのほうがすっきりする。
若い連中は「あーあ、けっこう降ってきちゃったよ」「サイテー」「梅雨入りじゃね?」「まだ早えよバーカ」とぼやいている。ベンチシートにヘルメットが見えているから、バイクで来ているのかもしれない。小さな子どもを連れたママのグループも困っている様子だったし、お年寄りの皆さんも、やれやれ、と外を眺めていた。
だが、「おひとりさま」たちは嘆かない。あせらない。にわか雨ごときでおたおたするな、という達観なのか、諦念なのか、ただ無気力なだけなのか、困惑も動揺もなく、コーヒーを啜り、ハンバーグを頬張って、若い連中よりもずっとぎこちない手つきでスマホを操作する。
そんな彼らを見ていて、ふと思った。ファミリーレストランの略称「ファミレス」はほんとうは「ファミリーレス」家族なし、という意味なのではないか?

小説のなか、妻、美代子が寿司屋のカウンターで、おひとりさま体験を楽しむシーンがある。何を隠そう、わたしはおひとりさま行動が大好きだ。もちろん、家族や夫婦、友人達との食事も楽しいが、ふらりと一杯呑み屋で酒と時間を楽しめる女性に、強く憧れている。でもそれって、家族がいる、夫がいるという裏打ちがあってこそ楽しめることかも知れないなあ、とも思うのだ。
はてさて、陽平、美代子夫婦の運命や如何に。

上巻は、一人の食卓。下巻は、団欒っぽい表紙絵になっています。

来年1月映画公開だそうです。映画版タイトルは『恋妻家宮本』
監督は『家政婦のミタ』などの脚本で知られる遊川和彦。
主演は阿部寛と天海祐希。二人が夫婦を演じるのは初めてだとか。

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HN:
水月さえ
性別:
女性
自己紹介:
本を読むのが好き。昼寝が好き。ドライブが好き。陶器屋や雑貨屋巡りが好き。アジアン雑貨ならなお好き。ビールはカールスバーグの生がいちばん好き。そして、スペインを旅して以来、スペイン大好き。何をするにも、のんびりゆっくりが、好き。
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